小説 川崎サイト

 

夢の残党


「あの頃ねえ」
「そうです。あの頃のようにはいきませんか」
「あの頃は遠い夢を見ていた」
「それは可能な夢でしょ」
「しかし、力不足で、遠くまでは行けなかった。一寸町内を出たところで、終わっていた」
「いえ、もう少し遠くまで行ってましたよ」
「夢があったからねえ」
「今はないと」
「距離が短くなっただけだが、それもどんどん狭くなった」
「もう一度野望を抱かれては如何です」
「それは如何なものか」
「あの頃の仲間はほとんどいません。減りました。残っているのは私とあなたぐらい。無人の荒野を行くようなものですよ。遮るものがない」
「もう誰も見向きもしなくなったためでしょ」
「すいてます」
「行列ができない店へ行くようなもの。あれは行列ができておるから入りたがる。しかし、それだけのものがあるから並ぶんだろうねえ」
「今ならあの頃の夢を掴み取れますよ」
「君と二人しかいない。掴めて当然だ。そんなに掴みたいのなら、君が独り占めすればいい。何故そうしない」
「一人では心許ないので。それにあなたはリーダーだった」
「私が放棄すれば、君は行くかね」
「さあ」
「頼りないねえ。欲しくはないのかい」
「少しだけ」
「もう本気で欲しがるようなものじゃなくなっている。得たとしても大したことはない。しかし夢もカスを掴める」
「はい」
「しかし、まだそんな情熱が残っているのだから、大したものだよ」
「いえいえ、簡単に手に入るのですから、情熱も必要じゃありません」
「しかし、若い頃果たせなかった夢が果たせる」
「そうなんです。それが大事かと」
「うーむ」
「今頃手に入れてももう遅いということでしょ」
「そういうことだ」
「じゃ、私が一人でやります」
「そんなことはいちいち断らなくてもいい」
「もしもですよ」
「何かね」
「まだ役に立つ可能性もあります」
「既に終わった世界だ。誰もそこへは向かっていないのがその証拠」
「意外とそれが盲点かも」
「もしかして、と考える程度の夢か」
「そうです。もしかして、です」
「うーむ」
「どう化けるかは分かりません。復活するかも。そのときは先頭に立てますよ」
「しかし、若い頃、挫折したものなど、もう二度と見たくない」
「その気持ちは分かりますが、情熱を持ち続けていることが大事です」
「いや、もうあのことに関しては情熱など消え、すっかり冷めておる」
「そこを温めるのです」
「君一人で行きなさい」
「こういうのは一人ではできません」
「困ったねえ」
「簡単に取れます。情熱も継続力も必要ありません。瞬発力も、知識も。何故なら、競う相手がもういないのですから」
「しかし夢には相当しない」
「ですが叶うのです」
「分かった。君がそこまで言うのなら、付き合うよ」
「有り難うございます」
「夢見る力がなくても叶う夢か」
「はい、いい趣向でしょ」
「そうだね。一人じゃ馬鹿らしくてできんが、確かに二人ならできる」
「あの頃のように進みましょう」
「よし分かった」
 
   了


2019年1月17日

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