小説 川崎サイト

 

詰める


「何を考えておられるのです」
「ああ」
「おっしゃっていただければ、そのように致します」
「いや、大したことじゃない」
「やはりそうでしたか」
「気にするようなことではない」
「しかし」
「言っても詮無いこと」
「ご命令を」
「命じる必要はない」
「では、お一人で」
「うむ」
「しかし、お聞かせください」
「そうか」
「やっとその気になられましたか」
「ずっと気にはしている」
「で、どのような」
「些細なことじゃ」
「はい」
「詰められん」
「はあ」
「将棋じゃ」
「それなら、我々が何とか致しましょう」
「詰めるのは難しい」
「我らにお任せを、そんなことをお一人ではできぬこと」
「これは一人でやるもの」
「我らも被りましょう。できれば、我らだけでやらせてください」
「それはできぬ。一人でやるもの」
「このところずっと思案されております。心配でなりません」
「もういい」
「あのことでしょ」
「詰めが甘い」
「身動きできぬように我らが計りましょう」
「いや、これは一人でやる将棋」
「それはいけません」
「助けは無用」
「はあ」
「分かっておるのか」
「島崎様のことでしょ」
「違う。詰め将棋で詰め寄るどころか、わしが詰まってしもうてな、何ともならん。一からやり直すにしても、ここまで詰めたのは初めて、二度と同じことができんかもしれん。あと一歩。あと一歩」
「詰め将棋」
「歩じゃ。歩を甘う見ておった。あの歩が邪魔で何ともならのじゃ」
「島崎様の歩と言えば使い走りの立花。分かります」
「そういう話ではない。島崎も立花も出て来ん。詰め将棋の続きを毎日やっておるといっておるじゃろ」
「分かりました。島崎様の前に、立花を始末しましょう」
「違うと申しておるに」
 
   了


2019年1月18日

小説 川崎サイト