小説 川崎サイト

 

黄泉の石蛙


 源五郎が拾ってきた蛙石。これは蛙の形にそっくり。蛙が石になったのではないかと思えほど。源九郎は渓谷の奥にある小室で発見したという。
 村の物知りがそれを見て、これは大変なものを引っ張り出す、あるいは引きずり出すかもしれないといい、元の場所へ戻すよう源五郎に命じる。
「爺さん、それはどういう意味ですか」
「自然にこんな蛙の石ができるわけがない。蛙そっくりじゃないか。これは作ったものじゃ。彫ったもの。それにあの小室は昔から怪しい。まさか奥まで行かなかったじゃろうなあ」
「蛙は入り口にありました」
「では出てきたのじゃ」
「蛙石がですか」
「奥からな」
「あの小室は何ですか」
「得体の知れぬ法師が作ったもので、蛙の穴じゃ」
「え、蛙の巣なのですか」
「蛙石の巣じゃ。オタマジャクシから蛙になる蛙ではなく、最初から蛙の姿をして生まれてくる蛙でな。そんなものは世の中には存在せん。法師が何か妙なマジナイで、出してきたのじゃ。小室の奥に小さな穴が続いておる。それが蛙穴。黄泉の国と繋がっておる。だから普通の蛙じゃないんだ」
「しかし、石でしょ」
「動かん」
「不自由そうですねえ」
「足で動くわけじゃない。全体が動く」
「この石蛙もそうですか」
「そうじゃ。寝ている間に消えたりする。物騒なものじゃから元にあった場所に戻してきなさい」
「どうして石になったのですか」
「法師が石化の呪文で石にしたと伝わっておるが、元々石だったのかもしれん」
「分かりました。お爺さん」
「返してくるんじゃぞ」
「はい」
 しかし、源五郎は渓谷へ下りるとき、滑って転倒したはずみで、蛙石を割ってしまった。
 どう見てもやはり石だった。長老がいい加減な嘘を言ったのかもしれない。
 源五郎は怪我をしたため、渓谷まで下りるのを諦め、二つに割れた蛙石を渓谷に投げ込んだ。
 その後、源五郎にも村にも変化はなかった。
 
   了

 




2019年1月22日

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