小説 川崎サイト



ネットビジネス

川崎ゆきお



「子供の頃、成りたかったたもの、ありますか?」
「あったかなあ?」
「思い出してください」
「色々あったからねえ」
「その色々のどれにも成れていない。違いますか?」
「そうなるかねえ」
「つまり、夢を実現する確立は小さい。違いますか?」
 経営コンサルタントが畳み掛けてくる。
「君はどうなの?」
「僕も子供の頃からコンサルタント業なんて思いつきませんでしたよ」
「ああ、思い出したよ。私はねえ、飴細工の職人になりたかったなあ」
「でも、そんなものでは食べていけないでしょ」
「形だけの甘い夢だよ」
「その後も思い出してください」
「さあ、野球の選手かな」
「それも無理だと何処かで分かったわけですね」
「誰しもそんなこと思うものだよ。当時は本気だったかもしれんなあ。忘れてしまったがな」
「つまり、僕が言いたいのは夢はめったに実現しないということですよ。社長は社長になるのが夢じゃなかったでしょ」
「親父が早く逝ったので、仕方なくの二代目だよ」
「それがリアルというものですよ。まあ、他の人では簡単に社長にはなれないでしょが」
「私の場合、簡単だよ。決まっていたんだな。まあ、すぐに会長に退くよ。息子が三代目だ」
「この規模の会社で会長の必要はありませんよ。相談役が適当かと」
「ところで、どうすればいい? この会社」
「僕は役員じゃないので、参考意見でいいですか?」
「外部の人間のほうがよく見えると思うからね」
「先程も言ったように、夢など実現しないんですよ。そこを押さえてもらえれば、踏みはずさなさないと思います」
「しかし、若い連中は、ネットでの展開がいいとうるさいんだよね」
「この会社は、ネットがなくてもやっていけます」
「そうだろ。それを聞いて安心した」
「しかし、珍しいねえ。みんなネットを薦めるんだけど」
「見て来ていますから。失敗した例を」
「そうだろ。私は最初からうさん臭いと思っていたんだ。君は信頼できる。これからも頼むよ」
「はい」
「ところで、君の若いころの夢は何だね?」
「ネットビジネスでした」
 
   了
 
 


          2007年6月24日
 

 

 

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