小説 川崎サイト

 

一般外の世界


 いつもと違う仕事が間に入ったので、下村は休憩時間が遅くなった。時間が来ればやめればいいのだが、気になった仕事で、ついつい熱中した。仕事に熱心なのではなく、気になっため。
 それはもう仕事から離れた別の箇所を刺激したのだろう。ただの好奇心かもしれない。休憩が遅くなるのも気にしないで続けていた。
 どうせ休憩時間といっても、ぼんやりしているだけで、これが一番休憩になるのだが、その時間、プライベートなことで使いたい。銀行に行くとか、買い物に行くとか。
 しかし休憩時間は何もしたくない。そうでないと休憩にならない。
 途中で差し込まれたその仕事。これは仕事と言えるかどうか、分からない。一寸した調査の依頼。すぐに終わるようなことではなさそうで、現場を踏む必要がある。そうでないと調査にはならないが、これは受けるかどうかを上司に相談する必要がある。
 ただ、受けるかどうかの最初の窓口は下村で、ここで蹴ってもいい。自分がやりたくない案件なら蹴っている。どうせ自分がしないといけないのだから。
 休憩から戻った下村は、上司に報告した。上司がどんな反応を示すのかが楽しみでもある。
「これは今日来たのかね」
「そうです」
 調査依頼はメールでの問い合わで、受けてくれるかどうか。
「何かの手違いでは」
「僕もそう思います」
「君はどう思うかね」
「だから、手違いだと」
「その内容だよ。そんなことがあるのかねえ」
「さあ、だから調べてみなければ分からないと」
「調べなくても、そんなことは起こらないと思うけど、まあ、うちはその専門じゃないから何とも言えないがね」
「はい」
「だから手違いだ。相談相手を間違えたんだろ」
「でもうちは調査一般となっていますから」
「これは一般には当てはまらないよ」
「そうです」
「受けるとしても、やるのは君だよ」
「はい」
「どうする」
「一応ネットでざっくりと調べてみました」
「何か分かったかね」
「そんな情報はありません」
「そうだろ。一般の話じゃないのだから」
「検索の仕方が悪かったのかもしれませんが、場所は確認できました」
「それはメールにも書かれているじゃないか」
「依頼に関する情報が、そこにあるかどうかを、もう少し詳しく調べていたのですが、ありません」
「まあ、君に任せるよ」
「じゃ、やってもいいと」
「ああ、好きなようにしなさい。たまには息抜きが必要だろ。休憩だよ。これは」
「有り難うございます」
「調査だけなので、適当でよろしい。解決する必要はない。うちは調べるだけだからね」
「はい」
 下村はにんまりとした。
 その依頼とは幽霊が出る家があり、それが事実かどうかを調べて欲しいというもの。
 その地方都市へ下村は遊びに行くようなもの。上司は下村がよく働くので、慰安旅行のつもりでゴーサインを出したのだろう。
 ただ、戻ってきた下村は、以前とは少し違っていた。
 
   了



2019年2月17日

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