小説 川崎サイト

 

上流下流の合流点


 それなりの力があり、器量もある人が、それにふさわしい地位を得た。上り詰めた。そしてその全盛期が過ぎた頃、その友人と道端で会った。その道とは小さな町の小さな道。小川は普段からそんなところは歩かない。車だ。しかし、現役を退いたので、郷里に戻った。まだ未練はあり、返り咲きを目論んでいるが、旬は既に過ぎていることは周知の事実。
 大山というその友人は名にふさわしくない地位しかなかった。力も器量もないので、名前負けしていた。名は凄いが見た感じ貧相な小男。その大山と小川がばったり出くわした。
 身なりは小川のほうが当然しっかりしている。一方大山は昔から身なりも貧素。質素ではなく、いつまで同じのを着ているのかと思えるほどの服装。所謂下層と上層がぶつかった。
「大山君か」
「ああ、小川さん」
「元気だったかい」
「小川さんもお変わりないようで」
「いや、ちょっと休憩中でね」
 小川の散歩は健康のためでも気晴らしでもなく、次なる構想を練っているところ。つまり仕事中。
「犬をねえ」
「犬がどうしたのかね」
「犬を飼ってたんだ」
「あ、そう」
「それで、毎日この辺りまで散歩に連れて行った。その癖が抜けなくてね。犬がいないのに、まだ犬の散歩をしているんだ」
「確かに犬はいない。見りゃ分かる。だったら普通の散歩だろ」
「そうなんだが、僕にとってはこれは犬の散歩なんだ。よく考えると、犬を連れてじゃなく、犬に連れられて散歩させてもらっていたんだよ」
「あ、そう。どうでもいいけど」
「小川さんはいつも若々しいですねえ。でもテレビで見ているより細いですねえ」
「あ、そう」
「帰って来たと聞きましたが」
「しばらく骨休めでね」
「また、活躍してください」
「ああ、有り難う。君も健康に気をつけて」
「有り難うございます」
「そんな敬語など使うなよ。同級生じゃないか」
「はいはい」
「困ったことがあればいつでも来なさい。しばらく本家にいるから」
「はい」
 二人はそこで別れた。それ以上話すようなこともないし、必要もなかったのだろう。
 大山は、とぼとぼと散歩を続けたが、顔はほころんでいる。
「勝った」
 と、コブシをぐっと握った。
 果たして何に勝ったのだろう。
 
   了



 


2019年3月13日

小説 川崎サイト