小説 川崎サイト

 

古代王朝


「最近は古きを訪ねています」
「ほう、どのような」
「古代文明まで」
「それはまた古すぎる」
「世界四大文明以外の文明、またはそれ以前のさらに古い時代にあったとされる文明」
「そこまで行きますか」
「しかし、離れすぎているのは重々承知していますが、まあ一種のロマンでしょうなあ」
「今の暮らしとはあまり関係はないでしょ」
「なりませんなあ。しかし何処かで繋がっているかもしれませんしね。その痕跡が残っていたりします。私達の先祖が生きていた時代ですから、繋がっています。ただ、完全に消え去った種族もいるはずですがね。偶然私達の先祖は生き残った」
「そうでないと、今ここにいませんからね」
「何か面白いものがありましたか」
「一等はシュメールですなあ」
「古代メソポタミア文明ですか」
「ここの人達は消えてしまいますが、世界中に散ったともいわれています」
「ほう」
「日本にも来ていたとか」
「そこからが目の上の話ですな」
「目の上のたんこぶ」
「いえ、目の上の眉の話」
「ああ、唾がいる話ですな」
「一寸指で濡らします」
「はい、ご随意に」
「しかし、その話は結構有名ですよ」
「あなたもご存じで」
「この種のことを探ると、必ず出てくる定番中の定番ですよ」
「仰る通り」
「実は実家の近くに古代文明の痕跡があるのですよ」
「ほうどこですか」
「故郷の山ですがね。その入口付近。子供の頃、よく遊んだ裏山のようなものですよ。そこに古代王朝があったとか」
「邪馬台国時代ですか」
「そうでしょうなあ。色々な国が列島のあちらこちらに無数にあった時代だと聞いています」
「それぞれ独立した国家のようなものでしょうなあ」
「まあ、似たような顔付きの人達でしょうから、棲み分けていたのでしょうなあ。それぞれ出身地が違うかもしれませんが」
「異国の人達も」
「さあ、異国という概念があったかどうかは分かりませんよ」
「それで、その古代王朝はどうなりました。調査は」
「眉唾話ですからね。それに痕跡もありませんから、調べようがない」
「でもどうして、そんな王朝があることが分かったのですか」
「古文書ですが、これがそもそも怪しいとされています。ただ、日本語でもなければ漢文でもない」
「読めないじゃありませんか」
「ヘブライ語に近いのですよ」
「くさび形文字とか。記号のような」
「それに照らし合わせて解読されたようです」
「誰かが書いたのでしょ」
「誰でしょうねえ」
「そうです。わざわざ分かりにくい文字で書く必要があったのかどうか、ここが問題です」
「しかし、その王朝が、その言葉を使っていたのかもしれませんよ」
「その可能性が少しあるのです。方言で残っていたりとかね」
「他に具体的な証拠は何もないのでしょ」
「岩です」
「岩」
「その近くにゴロゴロ山とか、そういった岩がゴロゴロしているところがあるのです。その岩に、その文字らしいのが刻まれています。これは今も残っていますよ。こういうのが好きな人が、岩に印をしています」
「それは少し興味深いですねえ」
「シュメール人の末裔が、ここまで来て住んでいたのかもしれません」
「ああ、それは世界中に残っているらしいので、珍しいことじゃないですよ」
「しかしねえ、遠すぎる」
「遠いですなあ」
「そうです。遠い遠い」
 
   了


 


2019年3月19日

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