小説 川崎サイト

 

岩場の行場


 山沿いの住宅地。ここは上へ行くほど金持ちの邸宅が多かったのだが、最近はその上まで家が這い上がっている。この辺りは里山で、持ち主がいる。それを売ったのだろう。そのため、今風な分譲住宅が斜面にへばりついている。その向こう側にも当然山は続いているのだが、そこは国有林。一応国立公園の一角だが、それらしきものはない。この山地そのものが国立公園のためだろう。そんな公園があるわけではない。ただの山。
 その先は山の奥へと続いているのだが、別の山系になるのか、少し区切れている。古くからの村がそこにあるのは、平らな場所があるためだろう。田畑もある。
 しかし、そこへ行くには車がないと不便だろう。バスは数時間に一本。その村とその近くにあるお寺と、ピクニックセンターあるため、何とか運行しているだけ。だから通勤圏内ではない。
 先ほどの斜面の住宅を越える一帯は荒れ地でゴロゴロ山と呼ばれている。そういう山があるのではなく、起伏が激しい程度。頂上というのはあるにはあるが、ただの岩のコブのようなもの。
 この辺りは岩がゴロゴロ転がっており、それでゴロゴロ山。太古の昔噴火でもあったのだろうか。
 ここはハイカーがたまに通る程度だが、このゴロゴロ山が目的ではない。住宅地の中程から山らしい景観になり出す。だから山への入口に近いが、既にここは山。家が建っているので住宅地に見えるが、そうではない。元々山だったのだ。
 しかしその先は国有林のためか、そのまま残っている。植林にはふさわしくない荒れ地なので自然に生えたような松が多い。それもポツンポツンとある程度。
 岩と岩の隙間は小さな渓谷というより古墳の石室のような感じ。つまり狭い。その上に一枚、岩が乗れば、これは人工物かと思ってしまうが、そういう珍しい偶然はない。
 先ほどから、その古墳の石室のような中で呪文を唱えている人がいる。まだ若い。
 ここを行場にしているというより、三方囲まれた場所なので、隠れ家ごっこに見える。
 そういった岩に囲まれた場所は探せばいくらでもあるが、いい場所は既に主がいる。その主のものではなく、早い者勝ちで、先に取ったものとなるのだろうか。ただ、しばくするといなくなることが多い。
 ここは通勤圏ギリギリの場所で、バス停もある。ここまでは電鉄会社のバスが走っている。数時間に一本ではない。それはその先の村行きだけ。
 だから市街地から、この行場は意外と近い。山奥ではないのだ。山の取っかかりだ。
 行者達はそれぞれ流儀があり、ヨガのようなことをしている人もおれば、単に座っているだけの人。また岩に抱き付いて、じっとしている人。
 松の木の股に昇って、そこから下界を見ている人と、様々。
 中には本を読んでいるだけの人もいる。
 ここには先住民がいたが、今はいない。といってもホームレスだ。しかし、彼らが健康的だったのに比べ、そこを占領した人達は誰もが病んでいるように思われる。
 
   了



 


2019年3月24日

小説 川崎サイト