小説 川崎サイト



ニギワ町

川崎ゆきお



 同じ町でも時の移り変わりが激しいと、十年ぐらいでも別の町のように見える。
 これは錯覚ではない。ずっとその近所に住んでいれば、徐々に変わる様を見ているので、変わり方に驚きはない。
 吉原は十年前に訪ねた町でショックを受けようと、再びやって来た。
 ニギワ町は繁華街の端にある。吉原が最初訪れたのはこの町が目的ではなかった。駅前で映画を観たあと、その余韻を楽しむかのように、商店街を歩いた。
 歩き過ぎたのだろう。商店街は果て、普通の町中の道になっていた。
 それで入り込んだのがニギワ町だ。
 商店街の余韻がまだ残っており、所々に店屋もある。商店街が切れてからも気付かなかったのはそのためだ。
 タイル張りが普通のアスファルトに変わったところが区切り目なのだが、吉原は気にもかけなかった。
 布団屋、提灯屋、古道具屋があったことを覚えている。
 しかしもう映画館はなくなっており、商店街もすっかりシャッター通りとなっていた。
 十年でこの変化は珍しくはない。この規模の町ではどこでも起こっているようなことだ。
 吉原が気にかけているのは、その先のニギワ町だ。
 だが、期待していたほどの変化はなかった。十年前と同じなのだ。
 布団屋も提灯屋もそのままだ。
 まさか、ここだけが時間が止まっているわけではない。
 上を見ると電話線に白いカバーがかかった固まりがある。光ファイバーが来ているのだ。時間が止まった町ではない。
 吉原は何を期待していたのだろう。映画を観るため来た町なのだが、もうその映画にも興味はなくなっている。もう一度観ろと言われても観る気はしない。それに潰れて、もうない。
 吉原がのこのこやって来たのは、様変わしたニギワ町だった。その変わり振りを楽しもうと目論んでいたのだ。
 しかし、ニギワ町は十年前とほとんど変わっていない。逆にそれは不思議な町なのかもしれない。
 吉原は町は十年で激変し、全く違った町になっているものだと思い込み過ぎていた。
 世の中にはバラツキがあることを学習し、吉原は散策を終えた。
 
   了
 
 
 


          2007年6月29日
 

 

 

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