小説 川崎サイト

 

村巫女


 疋田村の村巫女は高齢。老婆だ。この辺りの村巫女は年寄りが多い。どの村にも一人、そういう巫女がいる。これは特別な存在なので、一人。それ以上抱え込めないし、巫女は鬼道を使うため、船頭は二人いらない。迷ってしまう。一人の巫女が決定すればいい。ただ、もう今は巫女に頼るようなことはないが、本当に迷ったとき、それこそ丁半博打のように巫女に託す。
 疋田村の北にある真田村の巫女は、もっと北の方から来た巫女のようで、流儀が違う。所謂イタコの系譜。これは北方の巫女と呼ばれ、今はなくなった人とのコンタクトが専門になっているが、昔は鬼神とコンタクトが取れたらしい。これは神様のようなもので、こちらの方が巫女らしい。真田村の北方シャーマン系と疋田村の南方シャーマン系、二人の老婆が、ある日、出合った。まあ、同じ生業なので、同業のよしみだろう。
 二つの村、どちらにとっても一番近い隣村のためもある。当然近隣の村々にも村巫女がいる。この辺りはほとんどが南方の巫女で、北方の巫女は真田村だけ。
「娘は素質がないし、孫も駄目じゃ」
「ワタイところも同じ」
「どうじゃろう、養女をとらぬか」
「ワタイもそれを考えておったのです」
「少し離れておりますが、秩父に気性の激しい気の立つ娘がおると聞きました」
「ワタイも聞いております」
「信濃は遠いが、そこにもいるとか」
「もっと近くにおりませんかな」
「うちの村にはおらんしな」
「じゃ、秩父の気の強い娘にしましょうか」
「どちらが貰いますかな」
「占いで決めましょう」
「そうしましょう。そうしましょう」
 それで、秩父の村娘を養女にした。親も村も手を焼くほどの気の強い娘で、じゃじゃ馬娘。簡単に縁組みが決まった。
 二人の巫女は占いで決めたというが、実際にはクジ。北方イタコ系の真田村巫女が当たりを引いたので、養女とした。
 この巫女、あっちにいる人を呼び寄せる力はない。だから南へ下ったのだ。この辺りにイタコの風習はなく、占い婆さんとか、マジナイ婆さんとか呼ばれている。霊を迎え受けるより簡単なためだ。
 南方系の疋田村の巫女も養女を見に行った。
 この気の強い娘、何かが入っていると、北方の巫女は感じ、それを追い出すことから始めた。
 それには誰かを知る必要がある。しかし、イタコ系でも力がないので分からない。
 そこで、疋田村の巫女が呪文を唱え、御札を乱発させ、護摩も焚き、娘をいぶした。手荒いことをするのが南方系の特徴。派手なので、村ではこちらの方が受ける。それに北方の巫女は地味な普段着だが、南方の巫女は遊女以上に派手な化粧をし、衣服も派手。しかし婆さんなので、バケモノだ。
 気の強い娘は、それぐらいでは動じない。逆に二人の巫女に圧力を掛けてきた。これは神経に来るようなイライラが起こり、気が狂いそうになった。
「これは手強いですなあ」
「本物じゃわ」
 要するに、この二人の村巫女、神秘的な力など最初からないので、敵う相手ではなかったのだ。
「きつねが入っておるんじゃ」
「いや、違う、鬼神じゃ」
 結局二人の村巫女は、この気の強い娘に仕えることになった。
 秩父の村では厄介者だったが、疋田、真田両村や、その周辺では大変な評判となり、受け入れられた。
 しかし、その期間は短く、娘が大人になりかけたとき、鬼神が来なくなったのか、普通の娘に戻ってしまった。人が変わったように、大人しい子に。
 巫女としてはもう使えないので、娘の親とも相談し、戻すことにした。
 古い記録では、そうなっているが、実際には、ある日、高僧が娘を見に来て調べた結果、鬼神を操れるほどのシャーマンであることが分かったため、それを使えないように、何かをしたらしい。
 この娘の将来を気遣ってのことだろう。
 
   了
 
 



2019年3月31日

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