小説 川崎サイト



話は回る

川崎ゆきお



「あり得ないことだが話の中ではあるねえ」
「話の中ですか」
「あり得ない話としてあるんだ」
「実際にはないということですね」
「そう、実際には、現実には存在しないということだ」
「それが、どうかしましたか?」
「あり得る話も、あり得ない話も、どちらも話だ」
「話とは、誰かが語ったことという意味ですね」
「そうそう」
「でも、あり得ない話ははっきりしているんじゃないですか」
「誰が考えてもあり得ない話ならね」
「でも真意は調べれば分かりませんか?」
「知らない事柄だと、すぐには判断できんよ」
「そのときはどうしましょう?」
「語り手を信じるかどうかだ」
「それはありますねえ。あの人の言うことなら間違いがないとか、妙なことは言わないとか。でも、知らない人なら、どうなんでしょう」
「まあ、半信半疑で聞けばよい」
「それって、何の話ですか?」
「一般論だよ」
「でも、何か思い当たるものがあるんでしょ。具体的な」
「あるがね……」
「で、部長は迷っておられる」
「僕が、かね」
「そうです」
「その面を否定するものではない」
「来ましたねえ」
「何が?」
「超消極的な肯定を」
「だから、そう受け止められても、仕方がないと、言ってるだけだ」
「その判断は部下がせよと言うことですね」
「そう受け取られることを拒否しない」
「ああ、二発目だ」
「君らの判断に任せるよ」
「専務があり得ないようなこと、言ってきたんでしょ」
「それもあり得る」
「あるんだ」
「ないとは言っとらん」
「答えは出ているんじゃないですか」
「どっちだ」
「専務の話は断るべきでしょ」
「なぜ分かる」
「言い方で分かりますよ」
「じゃ、一緒に専務のところへ行ってくれないか。いや、君と一緒に行くことを否定するものではない」
「はいはい、僕が盾になりますよ」
 
   了
 
 
 



          2007年7月1日
 

 

 

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