小説 川崎サイト

 

生え抜きの生き残り


「当時はそれが最先端でしてねえ。といってもこの前のことですが、今はもう追いやられましたが」
「よくあることです。時代の移り変わりでしょ」
「しかし、古い時代の方がよかったような気がしますよ」
「じゃ、石器を使いますか」
「ああ、そこまで古いと。しかし、石器でも間に合ったのでしょうねえ。それが最新式だった。石を尖らせて道具にしたり、武器にしたりと。それを超えるものがまだなかったのでしょ。銅とか鉄が出てくるまでは」
「今もそれと変わりませんよ。周囲が変わり出すと、そのままでは難しくなるのでしょう」
「我々の時代は終わりですか」
「そうです。もう新時代に取って代わられました」
「私は老害として残りたかったのですがね」
「残っているじゃありませんか」
「メインから外れて草むしりですよ」
「雇ってもらえるだけでも結構なこと」
「高田さんはどうしてます」
「あの人は最後まで抵抗しましたがね。屈しましたよ。どこか遠いところへ行ってしまわれた」
「おっと時間だ。サボってられない」
「社員食堂でしたか」
「そこの飯炊きです」
「僕は空調の方です。ボイラーの免許も取りましたので、そちらもできます」
「ボイラーマンか。かっこいいじゃないか」
「キッコーマンと変わらないですよ」
「マンが付けば、かっこいいのはスーパーマンからでしょうねえ」
「ありましたねえ。まだテレビが家になかった時代、散髪屋へ行って見ましたよ」
「散髪屋にテレビあったのですか」
「店にはありませんが、散髪屋の家の居間にありましてね。そこで夜遅くまで見させてもらいましたよ。迷惑な話ですがね。子供なので、分からない」
「ところで、下北さんはどうなりました」
「西側で自転車整理をやってますよ」
「福田さんは」
「交通整理です。これは危ないですよ」
「でも、まだ若いでしょ」
「あなたもまだまだ若いじゃないですか」
「そうですねえ。まだ定年は先の先」
「私らの仕事、業者にやらせてもいいはずなんですがね」
「それが約束でしょ」
「そうでしたね。何らかの形で退職しないで済むようにと」
「あなたさっき、散髪屋でスーパーマンを見たって言ってませんでした」
「はい、言いましたが」
「あなた、何歳ですか。もうとっくに定年なんて過ぎているでしょ」
「いや、家が貧しかったもので、テレビが家に来たのはもの凄く遅かったんです」
「あ、そう」
「そうですよ」
「それより、一線を外れて、気楽になりましたよ」
「一線どころか、もう線の外ですよ」
「そうですなあ。飯炊きの会社でもないし、草むしりの会社でもない」
「我々の技術も、我々で最後でしょうねえ。もう誰も引き継ぐ者がいない。時代が変わりましたからねえ」
「また、どこかで必要なときがあるのでしょ。だから、我々を首にしないで、残しているのですよ」
「そうだといいんですが」
「しかし、長く使っていない技術。もう忘れてしまいそうです」
「そうですなあ」
 
   了

 
 


2019年5月18日

小説 川崎サイト