小説 川崎サイト

 

潜在力を引き出す


 倉田は急用が昼前にできた。前日分かっていたのだが、その時間まだ日常業務をやっている時間。これは欠かさずやっているので、日課のようなもの。しかし昼までかかる。だからそこからでは遅い。
 しかし敢えて早起きをして、昼のかなり手前に日課を済ませよとしたのだが、前日と同じ時間、もしくは少し遅い目に起きてしまった。特に早起きを考えなくても、早く起きることがある。だからそんな日が今日なら都合が良かったのだが、遅い目だ。
 そこから急いで日課をしないといけない。忙しい午前中になるのは仕方がない。午前中の用事が入るのは希で、ほとんどないといってもいい。数ヶ月に一度。
 急いだためか、早い目に終えることができた。昼前までにはまだ余裕がある。これで十分間に合う時間。
 倉田はほっとしたが、では今までの日課にかかる時間は何だったのかと考えた。別にゆっくり気味でもなかった。普通のペースだ。そのペースが遅かったのだろう。しかし、遅くする気などない。
 ところが少し急ぐことを意識して始めると、あっという間に終わった。
 この違いは何かと考察する。
 結局分かったことは急がなかっただけのこと。だから急げば早くできる。それだけのこと。さっさと次々にこなしていけば、早い。あたりまえのことだろう。
 物理的に、どうしてもかかる時間は当然ある。ある程度は時間がかかるのだが、その掛かり具合が短くなる。余計なことをしないで急げば早くできる。こういうあたりまえのことしか導き出せない。
 しかし、集中してやったので、疲れた。こんなことを毎朝できないだろう。それと、あまり考えないで、さっさとやったことも大きい。思案する暇がないので、適当にやった。妥当かどうかより、目的を果たすことを優先させた。これは機械的で、あまり良いことではないのだが、思案することでかかる時間が省けた。
 要するに手を抜いた上、さらに手を早く動かしたのだろう。だから当然早く済んだ。
 それで、昼前の用件を済ませることができたのだが、忙しかった。
 慌ただしい午前中。こんなことを毎朝やっていると疲れるだろう。
 普段よりも強いパワーを出せるのだが、火事場の馬鹿力のようなもので、それが標準になるとまずい。
 だから潜在力を発揮するとかは、疲れて仕方がないはず。
 翌日からまたいつもの午前中の日課が続いた。できるだけ午前中に入る用事は避けている。午後に回す。だが、どうしても午前中でないといけないのがたまにある。その午前中だけ、潜在能力全開になるのだが、言うほどの力ではない。ただ単に急ぎ気味になればいいだけのことだろう。
 潜在能力など、誰でも引き出しているのだ。
 
   了



 


2019年6月2日

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