小説 川崎サイト



喫茶店

川崎ゆきお



「即決でお願いしたい」
「すぐには答えられないですよ」
「まごまごしている時間はないのです」
「まごまごなどしておらんですよ」
「ここで止まってしまうと、先へ進めません」
「分かってますよ」
「では決断を」
「大事なことだよ。だからこそ、即決できない」
「いや、もう山崎さんお一人の問題なんです。お一人で決めても誰も何も言いません。従います。また、もうこれは一人で決める段階にきているのです」
「だからこそ慎重になるんだよ」
「で、どちらにしましょう?」
「君が決めるのかね?」
「いえ、今決めて欲しいと申しているのです」
「少し時間が欲しい」
「今日、この場が限界です」
「それは無理だ。こういうことは一人になって、しばらく考えてみんことには」
「考える必要はないかと」
「じゃあ、君は考えないで決めろと言うのかね」
「そうではなく、山崎さんが思うところで、決めて欲しいだけです」
「だからだよ、私の思いを確認する時間が必要なんだ」
「それは今、確認できませんか? もう既に答えは出ているんじゃないですか」
「出ていてもだ……それを確認する時間が欲しいんだよ」
「出ているのですね。答えが」
「出ておらん」
「事は急ぎます。ここでの停滞は許されません」
「ちょっと、喫茶店で考えてくる」
「喫茶店?」
「だから、ちょっと一人になって、考えてくると言ってるんだよ」
「何が、喫茶店ですか」
「だから、一人になれる場所でだ」
「トイレでもいいじゃないですか」
「何処で考えようと私の自由だろ」
「分かりました。これが最後ですよ」
 山崎は社を出て、近くの喫茶店に入ろうとしたが閉まっていた。仕方なく、その近くの喫茶店へ行くが、閉店時間だった。
 もう、この近辺に喫茶店はない。
 山崎は地下鉄に乗り、ターミナル駅へ出た。
 喫茶店は多くあるが、気に入った店がない。
 落ち着いて座れ、ゆっくりと考えられそうな店を思い出してみた。
 少し遠いが、大通りの裏側に老女がやっている静かな喫茶店がある。
 山崎はそこへたどり着いたのだが、半年前にはあったのに、既に店そのものが消えており、手作りパン屋になっていた。
 
   了
 
 
 


          2007年7月6日
 

 

 

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