小説 川崎サイト

 

辿り着けない大木


 こんもりとした繁みがあると高橋は寄ってみたくなる。一本の木が森のように見えていることもあるが、それだけの大木が街中にあるのは珍しい。しかしよく見かけることがあるのは神社の神木だろう。だが、それならその大木だけがぽつりと見えるのはおかしい。神社ならそれを囲むように木があるはず。中には神木飾りのない普通の木の方が高かったりするが、そんな巨木は別のことで指定されている。
 高田はその巨木に近付くと、急に低くなる。遠くから見ているときの方が高く、大きく見えるもの。近付くと小さくなるどころか街中なので遮るものが多くなり、もう見えなくなった。
 そしてその方向へグニャグニャ曲がり込みながら進むが、巨木は見えない。曲がり方を違え、方角を違えたのかもしれない。それで、もう一度戻りながら、別の道や通路に入り込む。住宅地の絨毯爆撃のようにくまなく探すが、見えてこない。
 当然今の時代なので、スマホがある。地図や航空写真でグーと寄れば、地形や町並みさえ分かる。
 しかし、それらしきものはない。真上からの写真なので高さが分からないためかもしれない。それでもそんな大木があるのだから、それにふさわしい場所があるはず。
 確かに広い敷地の家が何軒かあるが、これは農家だった家だろう。肉眼で見ても、それと分かる。中にはかなり古い家もあり、土塀そのものが倉だったりするが、板が剥がれて粘土のようなもの見えていたりする。
 しかし、そんな回りくどいことをしないで、近くの人に聞いた方が早い。
「巨木をお探しか」
「はい。このあたりだと思います」
「あなたは巨木をお探しか」
「はい」
「ほう」
「高くて大きく、もの凄く茂っていて」
「あなたは巨木をお探しなのですね」
「神木でも、大木でも、古木でもなんでもかまいません。大きく高い木です。僕が見たのは」
 高橋は別の人にも聞くが、要領を得ない。
 要するにそんな大きな木はないようだ。このあたりで一番高い木は白川さん宅のポプラか、祠の横に立っているクスノキだが、あれは電線に引っかかるので半分以上切ったため、もう低いので、高くはないと、丁寧に説明してくれる人もいた。
 しかし、高橋は見たのだ。これほど確かなことはない。それで、それを見た場所を探すと、すぐに見付かった。飲み物の自販機が二つ並び、一方はオール百円だったので、それで覚えている。そこに立ち、見たときの方角を見るが、ない。そんな方角など探さなくても、目立つのですぐに分かるのだが。
 迷い家というのがある。山中にそんなところにあるはずもない大きな屋敷がある。
 それに近いものかもしれない。
 
   了


2019年6月4日

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