小説 川崎サイト



魔法使い

川崎ゆきお



「魔法はあると思いますか」
 魔法使いに男は聞いた。
「魔法などない」
「やはりそうでしょ」
 男は安心した。
「でも、あなたは魔法使いでしょ?」
「それは名前だ」
「では、魔法が使えない魔法使いですか」
「魔法などない」
「じゃ、魔法使いは成立しないんじゃないですか」
「それはまた話は別だ」
「違う話なのですか?」
「話の中に出てくる話だ」
「では、あなたは話の中に出てくる人ですか?」
「君は何が聞きたい? 私の存在理由を正したいのか?」
「そうじゃありません。魔法が気に入らないのです」
「知り合いに魔法を使う人間がおるのか?」
「使えると言ってます」
「それは使えない」
「そうでしょ。使えないでしょ」
「だから、気にすることはない」
「でも彼は魔法攻撃を……」
「魔法はない。だから攻撃もない」
「そうですよね。そうなんですが、彼の魔法攻撃は……」
「それが魔法だ」
「えっ」
「魔法攻撃を受けていると思わせるのが魔法じゃ」
「じゃ、魔法は存在するんだ」
「これが平安時代なら魔法とは言わんだろ。今は今の話があるだけ」
「その、話って何ですか?」
「魔法にまつわる話だ。話の数だけ怪しげな術がある。君はその中の一つを話を知っておるだけだ」
「でも彼の魔法で僕は……」
「その人は貧弱で体力がないだろ」
「よく分かりますねえ。その通りです」
「真っ当な力がないので反則に出たわけだ」
「そうです。反則です」
「反則しなければ負けるので、使っておるだけだ」
「彼の魔法を防ぐ方法はありませんか」
「魔法は存在しない。この常識を取り戻すことだな」
「僕にも魔法を教えてください」
「今、答えを出したのに聞いておらんかったのか」
「防御魔法を教えてください。これなら、魔法じゃなく、お札とか、お守りとかのアイテムで何とかなるでしょ」
「君はもう魔法にかかっておる」
「僕も反則したい。狡いじゃないですか! 魔法なんて」
 こうして、この男も魔法使いになっていった。
 
   了
 
 
 
 


          2007年7月7日
 

 

 

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