小説 川崎サイト

 

人のやらない新しいこと


 古いものが意外と新しかったりする。この新しいという概念が、先ず問われるところだ。それを問わない場合、自分にとっては新しければそれで通じる。ただ自分だけの一人通りだが。多数にとっては古臭いとなる、古いだけではなく、臭い。
 味噌臭く畳臭く、漆喰臭い。これは壁だが、日本家屋の、あの土壁の剥がれたような匂い。土は臭い。土臭い。
 少し前のものでも、もう忘れられてしまったものを今見ると新しいが、おそらく以前はそれが新しいものだったはず。しかしより新しいものが出たので、忘れられた。だが覚えている人が多いと、バレてしまう。
 新しいものを追いかけるにしても、新しさの意味により違ってくる。たとえばあまり人がやっていないことをやると、これは新しいかというとそうでもない。その新しさに価値があるかどうかによる。だから新たな価値を見出したものがいい。新しさと他の人がやっていないこととを混同してしまいそうになる。価値がないので、他の人はやっていないのだろう。または価値を見出せなかったかだ。
 ただ、一人だけ価値を見出しても、それは価値として流通しない。
「それで木村君は新しくて価値あるものを探しているのですね」
「そうです。完璧でしょ」
「しかし値が出るまで時間がかかったり、出ないまま終わることもありますよ。新しいものは不安定ですからね」
「はい」
「それで見付かりましたか」
「いいえ」
「それはいけない」
「人がやっていないことならいくらでも見付かるのですが」
「まあ、そんなものです」
「何とかなりませんか」
「何が」
「ですから、上手く行かないのです」
「人がやっていないからといって価値があるわけじゃない。新しいからといって価値があるわけじゃない。それだけのことですよ」
「価値ですか」
「そうです」
「価値がないと勝てないのですね」
「勝ち組にはね」
「じゃ、価値組だ」
「そんな余計なことをいっておる場合ではないでしょ。君の価値観はその程度。だから目新しさだけを追うことになる」
「はい」
「自分らしさ、自分が見出した価値、そういうものに拘るからですよ」
「じゃ、人と同じようにやればいいと」
「それもなかなかできるものじゃないでしょ」
「ああ、そうでした」
「だから君は人並みのことができないので、違う道を見出そうとしているだけ」
「できますよ。やろうと思えば人並みのことは」
「でも嫌なのでしょ」
「楽しくありません」
「それを個性派と呼んでいます。古い古い」
「はあ」
「君の考え方そのものがもの凄く古いんですよ」
「じゃ、何が新しいのですか」
「日々新しい」
「はあ」
「まあ、頑張って模索しなさい。探求しているうちに偶然いいものと遭遇するかもしれませんからね」
「はい、分かりました」
 
   了


2019年6月13日

小説 川崎サイト