小説 川崎サイト

 

三本の矢


「割れんかね」
「中心メンバーです。敵の本体そのものですよ」
「その三人衆だがね」
「そうです。思うにその三人が大きな地位にあって、しかも影響も大きいです。一人一人が大きい」
「他は」
「大したことありません。実際に動かしているのはこの三人衆です。その結束が固いので、何ともならないのです」
「だから、割れんかといっている」
「割るとは」
「仲間割れ」
「それは無理かと」
「そこが割れたらどうなる」
「さあ、そんなこと、考えた人いませんし、僕も想像さえしていませんから」
「三体が固まっておるから固い。一体一体なら大したことないんじゃないか」
「三本の矢ですね。一本では折れ、二本でも折れるが三本だとなかなか折れないという年賀のとき毛利元就が息子達に語ったやつですね」
「細かい話はいい」
「はい」
「しかし、歴史を見れば分かる。折れたじゃないか」
「そうですねえ」
「だから三人衆も二人衆になればバランスを崩す。船頭が三人と二人とではバランスが違う。だから二人衆は双璧とかいうが、これはそのうち敵対する。三人衆だとそれは少ない。三角構造なのでな」
「分かりました。何とか崩してみます」
「三人衆の中でのリーダー格は誰だ」
「芝山氏かと」
「一番若いじゃないか」
「一番元気ですし、実力があります」
「次は」
「里中氏です。この人は一番の年長です。人望があります」
「最後の一人は」
「野々山氏です」
「どんなやつだ」
「それがよく分かりません。いつの間にか、その地位にいました」
「特徴があるでしょ」
「はあ、縁故ですかねえ。親戚が多い。それと人脈が豊富」
「それだけか」
「はい」
「この野々山だな、落とすとすれば、ここから崩そうではないか」
「野々山氏は大男で、巨峰です。一番難しい相手ですよ」
「縁故と人脈だけだろ」
「交際関係が広いですよ。それに交渉事では、彼がいつも出ていきます」
「三人衆を上手く調整しているのは、その野々山が臭いな。彼を取れば割れる」
「では、やってみます」
 しばらくして、彼は帰ってこなかった。
 野々村に取り込まれてしまったようだ。
 
   了

 


2019年6月20日

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