小説 川崎サイト

 

不思議な屋敷


 鬱蒼と茂る昼なを暗い場所に家がある。少し周囲の民家よりも敷地が広い。奥まった場所にあり、車で玄関先までは入れない。敷地までは私道で、近所の人がたまに散歩で入り込む程度。奥まった谷底のようなところなので、行く用事がない。
 その家も古いが、周囲の家も古い。同じ時代に建ったものだろう。ただ、敷地が広いことから、それなりの人物が住んでいる。
 家族はいないらしく、一人で暮らしているようで、近所の人はたまに見かけるが若い頃からずっとここにいるようで、今はかなりな年になっている。最初から老人ではない。近所の同年配の人は、それをよく知っているが、町内会にも入っていないので、回覧板のやり取りも、町内会の一斉清掃にも参加していない。
 最初からそういう家で、得体の知れない人だが、長くそこに棲み着いているので、そんなものだと思われている。
 たまに身なりのいい人が訪れたり、寿司屋や中華屋の出前も見かける。ピザのバイクは門まで来ている。
 当然郵便や宅配もここに来る。ただ私道の距離がそれなりにあり、車が入れるほど広くはない。無理をすれば入れないこともないが。
 屋敷の主は若い頃から老人になるまで、そこにいるようだが、働きに出ている姿は見かけない。外出はするが、近所で、すぐに戻ってくることが多い。
 生活していく上で色々と買い物があるのだろう。
 この屋敷ができた頃からいるのだが、その頃は十代後半だった。家族が何処にいるのかは分からない。親兄弟がいるはずだが、ずっと一人暮らし。ということは二十歳前に独立して、ここに家を建て、暮らしているのだろう。
 二十歳前で家など建たないし、土地も広いため、そんな金もないはず。
 庭木は最初から多く、今は何十年も経つので、太く背も高い。一寸した森だ。ただ、目立たないのは低い場所にあるため。
 地震や台風など、災害に何度か遭っているが、周囲の家々と同じように、屋根瓦が新しくなったり、倒れていた塀などは新しいものになっている。
 狭い公道から出ている枝道が、その屋敷の私道で、ここも木が生え茂っている。雑草なども五月蠅く生えているが、人が通れないほどではない。舗装はされていないが、ぬかるまないよう、石が敷かれている。草で見えなくなることもあるが、それなりに人が出入りしているため、生きた道だ。
 たまに散歩人が入り込み、屋敷の門にぶつかり、戻ってくる人もいる。近所の人も、門の近くまで散歩する。門の手前に祠があり、これは昔からこの地にあるためだろう。祠は屋敷の人が建て替えている。
 祭られているのは、延命地蔵のようだが、いつ誰が置いたものかは分からない。この地方を襲った災害か、人災かは分からないが、そのときにできたものだと言われている。
 それから数十年後、これは最近の話になるが、人が変わった。いつもの人が亡くなったのだろう。年齢的にもそんなものだ。そして二十歳前の人が住むようになった。
 そして前の人と同じような暮らしぶりだ。
 
   了


2019年6月28日

小説 川崎サイト