小説 川崎サイト

 

合田台風


 低気圧が台風に発達し、それが近付いて来るのか、晴天が一気に陰り出す。空梅雨で連日晴れが続いていたのだが、この台風が雨を持ってくるだろう。梅雨の雨か台風の雨かは分からないが。
 吉村はその影響で頭が痛い。低気圧のときはいつもそうだ。その親玉が近付いて来るのだから、いつもよりも重い。
 それで体調も悪くなり、何もできなくなる。実際にはできるのだが、身体が重く気も重い。気も優しく力持ちではない。
 台風が日常をかき回す。降らなかった雨も降り出す。
 吉村は合田のことを思い出した。彼は台風なのだ。最近発生していないが、そろそろ湧き出す頃。今年まだ発生していないので、第一号。というより、第一波だろうか。
 合田が現れると日常が狂う。平常が狂う。乱される。しかし、どこかそれを待っている面もある。かき回して欲しいのだ。
 日常は膠着しやすい。飽きてくる。平穏ならそれでいいのだが、退屈だ。変化を望む。
 合田が現れると危険。危機感。これが緊張を生む。そして、合田が暴れるだけ暴れるが、やがて去って行く。暴れ疲れたのか、暴れ飽きたのか、自然に消滅する。だからじっと身を縮めて通り過ぎるのを待てばいいのだが、これはチャンスなのだ。
 その台風のどさくさで、火事場泥棒のような真似をするのもいるが、未整理だったことを一気に整理したり、人を入れ替えたりと、普段できないことができたりする。ずっと懸案だったことで、なかなか実行に移す雰囲気ではないとき、合田台風のどさくさでやってしまえる。
 それにしては気も重く頭も痛い。こんなとき、逆噴射でもするように、より重く、より痛いことをした方がよかったりする。どうせ重く、痛いのだから。
 それで合田が来るのを待っているわけではないが、リアルな台風と同時に来るわけではないので、いつ現れるのかは分からない。
 
   了


2019年6月29日

小説 川崎サイト