小説 川崎サイト

 

朝会


「雨ですなあ」
「梅雨入りしましたから」
「集まりが悪い」
「雨ですからねえ、面倒なのでしょ」
「雨には負けますな」
「でも、あなたは出てこられた」
「朝会ですからね。日常業務です」
「業務ですか」
「まあ、日課です」
「しかし、自由参加なので、来ても来なくてもいいわけですから、今朝のような雨の日は来ない人が多いです」
「そうですなあ。でもあなたは来ている」
「あなたもですよ」
「じゃ二人だけ」
「私は会長ですからね。一応来ます。そうでないと、誰もいなければ困るでしょ」
「おかげで助かります。こんなところで、一人でいても手持ち無沙汰です」
「そうでしょ」
「しかしそれほど大切な集まりじゃないのでしょうねえ。雨だと来ない人が多いのは」
「そうです」
「梅雨時はぐんと減りますよ。今日はまあ、底ですねえ。雨でも来る人はあなたのようにいますが、他にもいます。当然です。雨なら中止というわけじゃないのですから」
「この程度の降りで来ないなんて、けしからんですなあ」
「まあ、無理に来てもらわなくてもいいのですよ」
「そうですな」
「まあ、たまに顔を出す程度でいいのです。私は毎朝来ますがね。これは日課です。そのついでに色々な人をお誘いして、来てもらっているのです」
「梅雨が明けて真夏になると、暑くて、また来る人が減るでしょ」
「いや梅雨時ほどじゃありません。ただ、雨でも来ていた人でも暑いと来なくなる場合もありますがね」
「ところで、ここは何の会でした。本来の意味を忘れていました」
「ただのお茶会ですよ」
「私はあなたに誘われませんでしたが」
「木下さんのお友達でしょ。木下さんに誘われた来られるようになったのでしょ」
「そうでした。木下君と一緒に来たのが最初でした」
「その木下さん、最近姿がありません。どうなされているのですか。電話をしても、そのうち顔を出すっていうばかりで、一向に来られません。あなた知ってます?」
「いや、木下君とは最近疎遠でして。連絡もしていませんし」
「あ、そう。じゃ、もう木下さんは来ないのかな」
「そうだと思いますよ」
「どんどんメンバーが減りましてな。それで人を誘ってきて下さいと言ったのですよ。木下さんにもね。ずっと以前の話ですが」
「それで来たのが私ですな」
「そうです」
「しかし、本来、この集まりは何なのです」
「先ほども言いましたように朝会、お茶会です」
「はあ」
「毎日来られているあなたなら分かるでしょ。ただの雑談です。特に何か目的があるわけじゃありません」
「これは、あなたが始められたのですか」
「そうです。多いときは十人ほどいましたよ。毎朝ここに来ていました。それが減っていきましたねえ」
「まさか、私のようなのがいるからでは。どちらかというと部外者でしょ」
「いえ、誰でもいいのですよ。私が知らなかった人でも」
「二人だけになる日もたまにありますねえ」
「最近多いですよ」
「それに雨だし」
「明日も二人のようです」
「じゃ、私は頑張って来ます」
「それは助かります」
 しかし翌朝は、その会長が来なくなった。
 
   了



2019年6月30日

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