小説 川崎サイト

 

籠城


「道はあるのか」
「怖いのは味方だ。敵はそこまで近付いていない」
 昨夜、籠城と決まることが分かった。打って出るだけの兵はあるが、立て籠もることにした。援軍は来ない。周辺の城は落とされている。本城だけとなり、敵の大軍を野戦で迎えるには厳しい。
 籠城即城を枕に討ち死に。粘っても数ヶ月持たないだろう。兵糧も、そのあたりで尽きる。
 それが決まる前に、籠城となることが既に分かっていた。おそらくそうだろうということは考えなくても分かる。
「道はできておるのか」
「何度も聞くな。手はずはできておる」
「怖いのは味方だといったな」
「抜け出すのだからな」
「うむ」
「今なら籠城は決定していない。だから抜けやすい」
「こんなところで、死ぬのは嫌だからな」
「ああ、落ちよといってくれないだろう。そんな主君じゃない」
「残る者だけは残り、とかいってくれれば助かるのに」
「そうだな。命は惜しい。忠義よりもな」
「そうとも。しかし何処から出る」
「敵に包囲されているわけではないが、早いほうがいい。もうそこまで来ておるだろ。そうなると包囲され、逃げにくい」
「早いほうがいい」
「荷物を纏めたか」
「ああ」
「二十人は欲しい」
「それ以上いる」
「じゃ、それで周辺の見回りということで城外に出ることができる。一人でこっそりと出るから怪しまれるんだ」
 この脱出組は全て足軽。ただの槍組の歩兵。
 数カ所ある門の中で、裏口からこっそりではなく、正面にでんとある大手門から抜け出した。一人は馬に乗り、組頭の扮装をした。足軽二十を引き連れて周辺を守るためだ。
 籠城とはいえ、城内に立て籠もっているわけではない。城内近くの道や要所に柵や関所を設け、人の出入りを監視している。そこで戦うのではないためか、兵は少ない。これは城内に侵入する間者を警戒する程度なので。
 それらは外から来る。しかし、脱出組は内から来る。当然顔見知りの同僚達だ。怪しまれるわけがないが、この時期なので、脱走兵と間違われる可能性も否定できない。
 城門を出てすぐのところに柵があり、雑兵が数人いる。士分はいない。
「植田八右衛門以下槍隊通る」
 そんな侍はいないが、雑兵たちもそこまで調べない。ただ、一人、知っている者がいた。
「あ」
「弥二郎か」
「見逃せ」
「わしらも寄せろ」
 雑兵しかいないので、話は早い。
 彼らもその気だったのだ。
 最後の会議が城内大広間で行われたが、その時既に家来は三分の一まで減っていた。
 籠城の噂を聞いた士分達も、足軽雑兵と同じように逃げ出していたのだ。
「まあ、よい。兵糧に余裕ができる。より長く持ちこたえられるじゃろ。当家の意地を示し、その武者振りを示してくれよう」
 これで正式に籠城と決まった。
 籠城のための準備中、一人二人と、出ていく者がおり、重臣などは大隊を組んで堂々と逃げ出した。
 先に一番最初に逃げ出した与次郎以下二十の足軽隊は、後方に異変を感じた。土煙や馬のいななき、荷駄の音までする。
「なんじゃあれは」
 旗指物も馬印もない武者が近付いて来る。
「味方じゃ」
「さては追っ手」
 しかし、同じ脱出組だとすぐに分かり、そこで合流する。
 そのとき、前方に敵が現れた。到着した一隊が陣張りでもしているのだろうか。
 しかし、弥三郎達を見て、城からの襲撃と思い、鉄砲を撃ちかけてきたが、遠すぎて、届かない。急なことで慌てたのだろう。
 弾の装填までの間を狙って弥二郎の槍隊が突撃し、その後ろからおびただしい数の脱出組の兵が続いた。
 結果的には城から打って出たことになる。
 寄せ手も籠城だと思い切っていたので、これには驚いた。
 そして、そのまま敵の本体に突っ込んだ。敵はまだ長蛇の列のまま、陣形など組んでいない。
 そこに向かい突撃したので、敵は道を開けた。
 しかし脱出組の兵は戦わないで、ただひたすら走り抜けた。
 もしこのとき、本気で戦えば、敵にかなりの損害を与えていただろう。もしかすると勝っていたかもしれない。
 城内でその報を聞いた籠城組の重臣達は、惜しいと一声発した。
 
   了
 


2019年7月9日

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