小説 川崎サイト





川崎ゆきお



「何か不思議な話はありませんか」
 神秘家の知人が聞く。
「オーソドックスな古典はないのう」
 神秘家が答える。
「古い話ではなく、最近の話で、何か……」
「減ったのう」
「でも、幽霊は出続けているのでしょ」
「最近は少ないのう」
「じゃ、やっぱり幽霊は出るんですね」
「妖怪よりは出るじゃろ」
「えっ! 妖怪もやっぱり出たんだ」
「それらを怪異談と呼ぶ」
「先生がそう呼んでいるのですね」
「この呼び方がそもそも古臭い。古臭くなった」
「そうですねえ。怪談も古いですねえ」
「だからじゃ、怪異談も古くなった」
「そうですねえ。神秘家なんてのも古いんでしょうね」
「わしのことじゃ」
「今は、どう言うんでしょうか?」
「さあなあ。最近のは知らぬので、呼び方も知らん。君は知っとるか」
「それは先生が、専門でしょ」
「いやあ、もう専門家の時代ではなくなっとる」
「それは苦しいですねえ」
「いやいや、昔から苦しかったよ。だから、それはよい」
「よいって?」
「食っていけんということだ」
「でも、最近は霊感商法とかがあるでしょ」
「神秘の壷を売る行為か」
「あれなんて、儲かるんじゃないですか」
「わしゃ神秘家で商人じゃない」
「商人ですか」
「何がおかしい?」
「商人なんて、誰も言いませんよ」
「商売をしておる人は商人だろ」
「間違いじゃないですが、その感覚が……」
「古いんだな」
「はい」
「最近は神秘鑑定の仕事も減った。本来なら、それらの壷を鑑定する仕事が増えるはずなのにな」
「どう鑑定するのですか?」
「霊験あらたかな壷かどうかだ」
「じゃあ、全部駄目でしょ」
「だから、誰も鑑定には来ん」
「でも、壷はもう古いんじゃないですか」
「いやいや、壷でないと感じぬ年寄りもおる」
「壷にはまるというやつですね」
「そういう話は不思議な話とは言えん。商売の話になる」
「先生も何か壷にはまるイベントをやられては?」
「大きな壷がいるぞ」
「はい、今日はありがとうございました」
 
   了
 
 
 
 

          2007年7月10日
 

 

 

小説 川崎サイト