小説 川崎サイト

 

簡単なもの


「簡略化ですか?」
「そうだ。簡単にしようと」
「今でも結構規模を小さくしていますよ」
「もっとだ」
「これ以上減らすと、もうやっていないような」
「もうやめてもいいんだがね。それじゃ寂しいだろ。だからまだやってます程度の規模でいいんだ」
「分かりました。しかし盛り返した場合、困りますよ」
「その心配はないし、私ももうやる気はない」
「じゃ、どの程度まで落とします」
「最低限まで」
「じゃ、かなりの省略になりますが、かえって手間がかかるかもしれませんよ」
「ゆっくりでいい」
「はい」
「規模縮小。これがいい」
「はい」
 ところが簡略化し、規模も落としてから、急に流行りだした。
「注文が来てます」
「何だろう。苦情か」
「依頼です」
「その注文か」
「どうしたのでしょうねえ」
「分からん。間に合うか」
「簡略化しましたから、大丈夫です」
 さらに依頼が続いた。
「不思議だねえ。いわば手を抜いてから流行りだした」
「粗悪品ギリギリですよ。しかも設備を減らしましたので、ばらつきも多いです」
「何だろう。やる気をなくてからこの祭り騒ぎは」
「そこまで賑やかじゃありませんが。注文が殺到しています。また機械を入れましょう。これじゃ間に合わない」
「急げ急げ、急げ幌馬車」
 しかし、以前と同じ設備に戻し、丁寧で精度の高いものを作り出した瞬間、注文がガクッと減った。
「何だろうねえ」
「分かりません」
 依頼が減ったので、また簡略化した。
 するとまた依頼が来始めた。
「やはり簡略化だ。簡単なものが好まれたんだ」
「まるで夢のようですねえ」
「夢だ」
 
   了


2019年7月13日

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