小説 川崎サイト

 

放置状態


 可能性を残したまま放置してしまったままのものが色々ある。武田は部屋の中で、その痕跡を見る。放置なので、仕舞い込んだり、捨てたわけではない。その頃やっていたままの状態で、それらは残されている。ただ、別のことをやり始めたため、少しは移動している。邪魔になるため。
 しかし、いつでもすぐにできるように、まだ周辺にある。大掃除でもしない限り、そのままだろう。古いネタほど埋もれ、深い階層にいる。
 そして、もう可能性はゼロ、もうやることはないだろうというのは、当然目の付かないところに移動させるか、または捨てている。
 本棚を見ると、その痕跡が残っている。それほど大きな本棚ではないので、もう読んだり参考にする必要のないものは、売り払うか捨てるか、または別の場所に移している。
 その本棚の中の一冊の背表紙、これは何十年も前にやめてしまったことの残骸。それが残っている。もう二度と手にすることはないはずなので、本棚にはないはずなので整理漏れだろう。そういう背表紙のタイトルが数冊ある。
 また、パソコンにもう使っていない機材などが接続されている。これは別のものを突き刺すまでの命だろう。邪魔にならないので、抜かれないで済んでいる。
 竹田はそれらを見ながら、放置したものが増えていることに気付くと同時に、可能性のあるものが減っていることも感じる。この感じは具体的で、物としてそこにある。頭の中にあった可能性そのものが具体的にある。
 年々減り続ける可能性の扉。いずれも可能性に向かう入口程度で、その入口から向こう側というのが本番なのだが、そこへも至らなかったものが多い。それは武田が至らないためだろう。
 そして、可能性や伸び代などを考えた場合、実際に残っているものは僅かになってきた。
 その残ったものとはメインとしてやろうとしていたものではなく、枝道、寄り道のようなもの。
 だが、残った可能性のあるもの、現役でまだやってるものも、ほぼ落ち武者状態で、衰退の一途。
 そこで武田は、そんな景気の悪いものは捨てて、新たに別のものに手を出すのだが、それらが放置物としてうずだかく積み重なっている過去を見ると、そう簡単には手が出ない。
 そうして残ったもの。まだやっているものが、結構リアルな存在に見えてくる。カスとかクズしか残らなかったわけではないが、可能性はあっても、それほど伸びないものばかり。
 しかし、放置していないだけましで、これは捨てる気が最初からなかったりするので、本物だろう。だが、その本物が今一つ勢いがないのは淋しい限り。
 しかし、それらには色々と放置したものの何かが肥やしになり、それなりに発酵しているのだろう。
 そして放置したものの復活。再開というのは、何度かやっているが、一度捨てたものに関しては無理なようだ。
 だから、捨てないで、放置状態にしているのだろう。
 
   了


2019年7月22日

小説 川崎サイト