小説 川崎サイト

 

ある作戦会議


「その後どうなりました」
「色々と情報を集めています」
 小さな街の小さな駅前商店街の奥にある喫茶店。こんなところで話し込んでいる二人は何者だろうか。きっとそれにふさわしいレベルの人達に違いない。
「相変わらずのままではいけない」
「そうです」
「しかし、何ともならなくても何とか打開策を立てないとね。そのため、日々努力はしていますよ。君もでしょ」
「これ、一万円です」
「モバイルノート」
「はい、中古ですが動きます」
「じゃ、ネットで」
「はい、これで外出先でもアクセスできます」
「スマホで良いんじゃない」
「画面が小さいので、駄目です」
「じゃ、タブレット」
「やはり使い慣れたOSじゃないと」
「しかし、それ大きくて分厚そうだけど」
「二キロほどあります」
「あ、そう。しかし携帯性が悪そうだけど大丈夫」
「それぐらいの重さ、何ともありません」
「あ、そう」
「ところで、先行きはどうです。何か動き、ありましたか」
「ない」
「僕も見付けていません」
「じゃ、想像で行くか」
「はい、予測しましょう」
「そうだね」
「手掛かりがないときは、仮の手掛かりを作って、そこから推測していくことです」
「仮の手掛かり、いいねえ、それは」
「仮ですから、適当でいいのです」
「それじゃ全てが仮定にならないかね」
「現実も仮定のようなものですよ」
「おお、いきなり」
「手掛かりが見付かるまで、適当に作戦を練りましょう」
「そうだね」
「前回は出遅れました。動きが見えるまで待ったからです。今回は先走りましょう」
「いいねえ、いいアイデアだ」
「いや、まだアイデアの中身の話じゃなく、ただのアタック方法です」
「そうだね」
「少し話が変わりますが」
「何かな」
「雨でしょ」
「雨が何か絡んでくるのかな」
「いえ、雨で、ここまで自転車で来るのが大変なので、バスに乗ってきたのです」
「あ、そう」
「それでコーヒー代が足りないのです」
「ああ、それぐらいいいよ」
「有り難うございます。じゃ、続けます」
「よし」
 何の手掛かりも、情報もないまま仮定の話で大いに盛り上がり、二人は満足を得た。
 そして駅前で別れたのだが、コーヒー代が払えなかった仲間は、バスにも当然乗れず、とぼとぼと歩いて帰った。
 バス代を貸して……までは言えなかったのだろう。
 
   了



2019年7月26日

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