小説 川崎サイト

 

夏の散歩


 梅雨が明け陽射しが戻り、急に暑くなった。ただ湿気が抜けたのでカラッとした暑さ。明朗な暑さだ。湿気ている日は数値より暑いが、その日は数値通りの暑さ。ただ、気温は上がっているので、見た目通りの暑さだが。
 所謂炎天下。外に出るのを避けたいところだが、田辺は散歩に出た。今までは暑いので、出る気が起こらなかったのだが、夏の勢いに勝った。というより、勢いに乗せられた。盛夏、それは盛り。このエネルギーを吸収したのか、元気になり、活気が出てきたため。それで行動的になったのだろう。
 嫌なときはもっと嫌なことをする。これに近い。暑いときはもっと暑苦しいことをしたい。これはやけくそのようなものではなく、暑気払いには、この方法が効くようだ。一度暑いのに当たれば、免疫ができるわけではないが、その後の暑さは凌げる。暑さ慣れというのがあるのかどうかは分からないが、慣れると何ともなくなることがある。だが暑さに対しては、気持ちは慣れても体が付いてこないはず。所謂夏バテになる。当然熱中症に。気持ち、張り切り方とは裏腹に、肉体はリアルだ。
「それでこの暑い中、出たのですか」
「そうです」
「何ともありませんか」
「ただの散歩ですよ」
「炎天下散歩に出ている人を見ますが、木陰で休んでいる人が多いですよ。意外と涼しいのでね。だから炎天下を延々と歩くわけじゃないでしょ」
「それをやりました」
「ほう」
「自慢するようなことじゃありませんがね。炎天下で仕事をしている人もいますよ。それに比べれば暑くなれば、さっと日陰に入って休憩できるし、また途中で引き返すこともできますから」
「まあ、無茶はなさらないほうがいいですよ。是非ともやらなければいけないことじゃないでしょ。ただの散歩でしょ」
「意外と大丈夫でした。暑くなかったです」
「そんなバカな。今日はもの凄く暑いですよ。今夏最高気温を記録したとか」
「暑すぎて、分からなかったのかもしれません」
「そんなバカな。それは頭をやられたのじゃありませんか。大丈夫ですか」
「大汗をかきましたが、これを一発やると、すっきりするのか、出す物を出したのか、あとは平気でした」
「何か身体に悪そうですが」
「意外と大丈夫なのです」
 しかし、二日後、寝込んだようだ。
 暑気が二日後に出たのだろうか。それにしては、遅いようだが。
 
   了
 


2019年7月29日

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