小説 川崎サイト

 

一騎駆け


 人は一人では弱いのだが、複数集まると強い。これは一人では弱いので仲間を募るのだろうか。または自然と寄り集まるのだろうか。それは分からないが、特定のグループがいつの間にか出来上がっている。そのメンバーはより自分に近いグループに自然と入っている。友人と一緒に参加したなら、その友人の友人などと合体し、二人が三人、三人が四人と繋がりを得る。いずれもそれなりに近い関係だろう。一人一人は単独なのだが、何処かに所属しているかのように、あるグループに属してしまう。
 これは強制的にグループ分けされたわけではないだけに、境界線は曖昧で、お隣のグループの誰かとも親しかったりするので、分けきれるものではない。
 グループ同士が合体したり、別のグループができることもある。
 岩田という人がこの業界では一番大きなグループを引っ張っている親玉だが、別にその気はない。ただ、人脈のネットワークが一番広い。そのため、この業界での集まりでは中心人物。また他の業界との繋がりもあり、文句なしの親玉であり、まあ、王様のようなもの。
 ところがどのグループにも入らないで、単独で動いている人間がいる。色々なグループの誰かとは繋がっているが、深くはない。だから見知らぬ人ではないが、仲間内ではない。
 そういう一人駆けの単騎タイプが複数いる。色々な集まりに顔を出すものの、さっさと帰ってしまう。
 岩田はそれらの単騎タイプを何とかしたいと思っている。一人でポツンといる人が気になるので、よく声を掛ける。実はこの方法で、仲間を増やしたのだが、決して親玉になるためではない。
 そういった一騎駆けが複数来ていたことがある。これはお互いに分かるようで、同じ一騎駆けがいると安心するらしい。誰とも馴染むことなくやっている人なので。
 つまり、単騎武者は馴染みたくないのだろう。一人駆けのほうが自由さがある。何処にでも顔を出すことができる。
 その親玉の岩田とは別に、別のグループの親玉達もいる。それぞれが王様のようなもの。仲が悪いわけではないが、肌が合わないのだろう。だが親玉同士は仲がいい。
 岩田グループにいると他のグループには顔を出しにくい。別に裏切り行為ではないが。
 単騎行動ではこれができる。誰に気兼ねすることなく、何処にでも行ける。
 しかし、仲間内の助け合いはない。困ったとき、助けてくれたりするが、仲間のため、やりたくないようなこともしないといけない。
 メリットの方が多いが、デメリットもある。一方単騎武者はその恩恵も義理の付き合いもないが、何かの集まりのあとはいつも一人でポツンと帰っている。このあたりが少し淋しい。だから孤独な人だろうが、そのスタイルが合っているのだろう。
 ある大きな集まりが終わった帰路、最寄り駅へ真っ直ぐ歩いている人間がいる。いずれも終わってからの交流のない一騎駆けの連中だ。しかし数騎いる。
 彼らは顔見知りだ。同じタイプの人間のためだろう。一人で動いているので、すぐに分かる。
 偶然横に並んだときでも、会釈程度でさっと離れる。
 この一騎武者が集まればそれなりのグループができるはずなのだが、その必要がないので、一騎駆けを続けている。
 
   了
 


2019年7月30日

小説 川崎サイト