小説 川崎サイト

 

神主選考委員会


 その村には昔から残る古い組織がいくつかある。それらは自治会が引き継いでいるのだが、それとは関係なく、未だに残っているものがある。それは神主を決める委員会。五人おり、全員の同意が必要。この神社には神様以外にも人が住んでいる。横に住居があり、そこで生活している。専従で、プロの神主だ。神主以外の仕事はしていない。氏子代表とかが神主をやるのではなく、神社だけで生計を立てている。当然村の中の誰かが神主になるのだが、それを選ぶ組織。ただ村人から選ぶとは決められていない。
 だが、この組織、もう儀式のようなもので、長い間、田宮家が神主をやっている。もう何代目だろうか。当然以前は村人だった。
 宮田家は真面目に神社を管理している。特に代える必要はないので、数年に一度、この委員会が選考するのだが、他の候補はないので、宮田家が引き受けることになる。だから、もう儀式で、形式だけのもの。その組織も、それだけしか、しない組織で、五人の氏子のメンバーの家も変わっていない。
 だが、その年、メンバーの一人が引っ越し、もう村とは縁が切れたので、欠員ができた。
 昔から住んでいる大きな農家の人がなるのだが、これはほぼ大きい順。そして欠員ができたので、村で六番目に大きくて古い家が選ばれた。
 一応委員会だが、数年に一度その儀式をするだけなので、数時間、そこに顔を出せばいい程度。もう決まっているので。
 ところがその新委員、何を血迷ったのか、異議を唱えた。では、誰を選べばいいのかとなる。候補はいないのだから、異議を唱えるも何もない。ただ、気に入らなかったのだろう。田村家が。
 他の委員は、その新委員を説得した。
 宮田家も元々は大きな農家で、昔は委員をやっていた。そして神主は当事者なので、この委員会には参加できない。
 新委員と宮田家の関係はほとんどない。犬猿の仲でもない。
 では何故異議を唱えるのかと問いただすと、儀式、形式だけになっているためだと答えた。
 四人の委員は口を揃えて、その通り、これは儀式なのだから、余計なことを言わず同意せよと迫った。
 それでは委員会の意味がないと、新委員は反抗した。
 仕方なく、後日、この新委員を解任する手続きに入った。簡単なことだ。これは多数決で決められる。
 宮田家が神主というのはもう馴染みすぎており、これを代えることが実は難しい。
 また、この委員会の中から新しい神主を選ぶことができるのだが、その資格は委員会の五人。
 異論が出たことを神主の宮田家に伝えたが、これは表向きは公言してはいけない。
 すると神主の宮田は、いい話だと乗り気になった。
 新委員は神主になる資格がある。その家にやって貰おうと、神主は委員会に嘆願した。
 余程神主の仕事が辛かったのだろう。
 
   了

 
 


2019年8月3日

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