小説 川崎サイト

 

夕食後の散歩


 立花は夕食を済ませ、汗をかいたところで一息ついた。真夏の夕、温かい汁物では汗をかくだろう。しかも湯豆腐も。これは残っている昆布を使い切りたいため。長く放置するほどコクが出ると言うが、カビが生えかかっている。
 ここまで、つまり夕食終了まで辿り着けば一日が何とか終わる。その、ここまでにやっと辿り着いた。そのあとすぐに眠りたいところだが、それでは早寝過ぎて明け切らぬうちに目が覚めてしまうだろう。夜中目を覚ますことは何度かあるが、寝たりないので、当然また寝る。その目覚めとはまた違う。本当に目が覚め、身体も起きてしまう。逆にそのまま寝る方が苦痛。
 夕食後の汗は扇風機で徐々に引いていく。そのときは一瞬涼しいが、まだ汗ばんでおり、流れていないだけ。
 食べるものを食べたので人心地ついたので、夕涼みにでも出ようと思った。これは日課になっていない。夕食までは仕事をしている。これがいやでいやで仕方がないのだが、やらないと食べていけない。そして今日の予定はもう終わった。いつもよりも早い目に済んだためか、夕食も早かった。そのため、外はまだ明るく日も沈んでいない。西日を受けての夕涼みは理に合わない。日が落ちて薄暗くなってからだろう。で、ないとまだまだ暑い。
 それと、この時間、部屋にいるよりも、外のほうが少しは暑さはまし。それで、出ることにした。
 日が相当傾いているためか、影が異様に長く、人影は誰もが足長おじさん。女性の場合、どういうのだろう。
 散歩コースというのは特にないが、駅とは反対側へ向かうのが癖になっている。そちらのほうが静かで、緑も多いため。当然車も少なく、歩きやすい道も多い。
 何年もここに住んでいるが、どんな町なのかまでは実際にはよく知らない。用事がないため、散歩で歩く程度。だから知識もその程度。
 自分の周囲のことしか関心は無いが、もっと昔の、もう自分とは関係のない時代のことには関心があるようで、これは関わりが無いので、いいのだろう。
 昔、このあたりの村は武装していたという話が残っている。何処と戦っていたのかなどは調べようがないが、旧家に記録があるかもしれない。どちらにしても歴史を動かすような戦いではなく、村同士の小競り合いだろうか。
 荒木という武将がここから出ている。歴史に少しだけ名を残すが、地元の人は関心が無いようだ。村人が入れ替わったためだろう。
 荒木氏の一族は滅ぼされた。そのため数多くいた子供も果てたので、その血筋はもう残っていない。
 立花はそんなことを思い出しながら、村の地形などを見ている。荒木家の屋敷があったはずなのだが、それが何処だか分からない。家は消えても、敷地跡ぐらいはあるはずだと、それらしい場所を見て歩いた。
 村にいた兵。これは今なら地元の消防団員程度だろうか。または村祭りで神輿を担ぐ男達程度の数。
 そんなことを知ったからといって、役に立つわけではない。ただの好奇心。
 日がかなり傾き、沈もうとしている。いい感じの夕焼けだ。この夕焼けは荒木氏時代にもあったのだろう。
 
   了


2019年8月10日

小説 川崎サイト