小説 川崎サイト

 

葛餅


 常田は昼ご飯が面倒なので、わらび餅を買った。しかし、しっかり見ていなかったので、実は葛餅だった。四角い豆腐のような大きさで、容器も似ている。そこにきな粉と蜜の袋が入り、樹脂製だが先の尖った鋭利なナイフのようなものも入っている。爪楊枝ではない。葛餅を切るためのもの。
 わらび餅なら小さな団子よりも小さいので、そのまま爪楊枝に突き刺して食べられる。きな粉は最初から乗っている。
 暑いときはところてんのような、寒天ものがいいらしい。それで似ていなくはない程度のわらび餅を買ったのだが、本格的な葛餅を間違って買ったので、果たして効果はあるだろうかと、少し心配になった。
 それで、豆腐一丁分近くある葛餅の上にきな粉をまぶせた。飛び散らないように注意し、樹脂製のナイフをぐっと突き刺し、すっと引くと簡単に切れた。それで食べる分だけ切って口に入れた。
 昼ご飯なので、全部食べた。
 そのあと、喉が渇いた。何が乾かせたのだろう。蜜は付けていない。きな粉だけだ。葛餅本体にも少し味があり、きな粉もいらないほどだが、色目が違うし、華やかで明るくなる。菜の花が咲いたように。
 何が喉を乾かせたのか。それはきな粉なのか葛餅なのかは分からない。
 今までにない喉の渇き。水を飲むがまだ乾く。
 冷菓で涼しくなろうとしていたのだが、それよりも喉が渇いて仕方がない。
「そんなことがありましたか」
「詰まらん話でしょ」
「わらび餅と本格的な葛餅を買い間違えたあたりからおかしくなったのですな」
「いやいや、大した違いはありませんよ。しかし、わらび餅にきな粉を付けて食べてもあれほどの喉の乾きはありませんでした」
「その葛餅、どんな梱包でした」
「わらび餅は安っぽいパックで中が丸見えですが、少し高いのを食べてやれと、奥から取り出したのです」
「奥」
「高いのは奥にあります。まるで土産物のような箱に入っていました」
「じゃ、贈答品のようなものでしょ。暑中見舞いなどでの手土産用の」
「そうだと思います」
「だから、賞味期限も長いはず」
「しかし、葛餅だったのかどうか、うろ覚えです。確かそう書かれていたような」
「豆腐一丁近い葛餅を全部食べられたのですな」
「わらび餅のようなものだと思いましたから。それに昼ご飯代わりなので、それぐらい食べるでしょ」
「それで喉が非常に乾いたと」
「そうです」
「それだけの話ですね」
「はい。だから詰まらない話です」
「それ以上発展しない」
「はい、喉が乾いたなあ、で終わりです」
「聞いている私まで乾いてきました」
「すみません」
「豆腐一丁分の葛餅ねえ」
「はい」
「私なら」
「どうされます」
「わらび餅でもなく葛餅でもなく、吉備団子にします」
「ああ、はあ」
 
   了



2019年8月12日

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