小説 川崎サイト

 

浪費の神事


 今年もお盆が来た。武田はこの日、何か特別な買い物をしてもいい日と決めている。たとえば普段は買えないようなもので、迷い悩んだまま実際には諦めたものでも、この日なら買ってもいい。お盆の記念のようなものだろうか。一人でお盆セール、お盆祭りをやるようなもの。
 これは年の瀬の大晦日もそうで、この日は一年を無事過ごせたので、記念で何か買ってもいい日。しかも無条件で。
 これはご先祖様からのプレゼントだと武田は勝手に解釈している。それを自分で買うようなもの。しかし、プレゼントなので、何がもらえるのかは分からない。送る側が決める。しかし、送る側も武田なので、武田自身が欲しい物の中から選んでいることになる。要するに何やかやといいながら、結局買いにくいものを買うチャンス日としているだけだろう。
 ただ、それらは衝動買いに近いので、冒険しすぎて、失敗することもある。
 今年も無事夏を越せそうなので、その意味でのお盆の買い物に走ろうとしたのだが、夏はまだ終わっていないし、暑い日がその後もあり、熱中症などでダウンするかもしれない。それを言えばきりがないが。
 その物も欲しいが、それ以上に、この行事を続けているのは、何かの区切りだろう。そして、そういった自分に対してのプレゼントを買える状態を愛でること。これは目出度いだけかもしれない。
 一年の半分を既に過ぎているが、その過程での給水所のようなもの。
 これは毎年良好なわけではなく、厳しい年もある。それでも何とか過ごせているだけで十分。もっと苦しい状態の人もおり、それに比べれば平和なもの。
 不幸はあるが、普通の不幸なら問題はない。
 さて、それで今年もお盆になったので、武田は何を買うかと物色しているのだが、候補が多い。それら全てを買うわけではないし、買えないものもあるし、必要ではない物もある。いずれもなければ困るようなものではない。
 だからこの年のお盆にふさわしいものを探す。いまの武田を象徴しているようなものがいい。そうなると、ストーリーを作らないといけない。一寸した物語が必要。
 それらはこじつけであってもかまわない。神話とはそんなものだ。
 ということはお盆や大晦日に神事をやっているようなもの。
 だからこれは聖なる行事で、儀式なのだ。
 しかし、この年のお盆、台風が来ており、外に出られない。
 それでも実行はできる。ネットで買えばいいのだ。
 
   了


2019年8月18日

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