小説 川崎サイト

 

送り火の夜


「盆が終わるのう」
「もうすぐ送り火です」
「そろそろ帰らないといけないなあ」
「あっちへですか」
「君はどうする。まだ残るのかね」
「去年から残っています」
「それは長居過ぎる。あっちじゃ心配しているじゃろ」
「一度帰る予定ですが」
「じゃ、丁度いい。送り火が焚かれている間に立とう。いいタイミングじゃ。この機を逃すと、立ちにくいぞ」
「そうですねえ。一年も空けていたので、向こうはどうなっているのか、気になりますよ」
「相変わらずだよ、あっちは。こっちほどには変化はない」
「じゃ、立ちましょうか」
「そうしよう」
「しかし、今年、戻ってきた人は少ないようですよ」
「年々減ってる。昔ほど盛大に迎えてくれん」
「何度ほど帰られていたのですか」
「毎年じゃ。もう長い。もうわしのことなど誰も知らんかったりする」
「でも遠いご先祖に当たるわけですから」
「そうじゃな」
「じゃ、行きましょう」
「よし行くか。ところで、君はどちら方面だった」
「戻るところですか」
「そうじゃ」
「毎回適当です」
「そうじゃな、場所などないものなあ」
「そうですよ。郵便も届かないし、宅配便も来ませんよ」
「まあいい。ここを立つだけでいい」
「はい、行きましょう」
 上田は寝ていたとき、そんな会話を聞いた。
 あれは誰だったのか、映像はなく、声だけが聞こえていた。
 
   了


2019年8月20日

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