小説 川崎サイト

 

今様


「過ごしやすくなってきましたねえ」
「いい気候です」
「まだ、暑いですが、暑さに勢いがない。弱まりました。いい感じです」
「盛りが過ぎたあたりがいいのでしょうねえ」
「夏の真っ盛りもいいですが、暑くて何ともなりませんからね。過ごしやすいとはいえません」
「過ぎゆく夏を惜しむ。そのあたりの頭になりますからね」
「頭もクールダウンしますし」
「ダウンしすぎると駄目ですが」
「凍えて固まったりとか」
「そうですねえ」
「しかし、涼しくなると、落ち着きます」
「盛んなときは、この落ち着きは無理ですから」
「そうですねえ。落ち着いている場合じゃない」
「こういうのは毎年繰り返されるので、既に分かっていることですが」
「分かっていても、そのときはそのときですよ」
「しかし、このまま寒くなっていくわけですから、あまり喜べませんが」
「それこそ、そのときはそのときですよ。今は今」
「今様ですな」
「今様というのは、新しい目の今風なものですよ」
「じゃ、昔からあるあの舞いは当時は新しかったのですね」
「そうだと思います。今様以前の踊り方というのがあったのでしょう」
「しかし、その今様も、もの凄く古くさく感じますよね」
「まあ、今は今の舞いがあるわけです。それを今様とは言いにくい。今様は今様として固まっているわけです」
「じゃ、今様が流行っていた頃、さらなる今様もあったのでしょうねえ。もっとその当時の今風な感じにアップしていくとか」
「じゃ、今様は当時はモダンだった」
「おそらく」
「おっと話が逸れました」
「まあ、今様とは、今風なことと考えればよろしいでしょう。今の様子。そのまんまですが」
「じゃ、私も今風を舞ってみます」
「別に舞わなくてもよろしいですよ」
「そうですねえ」
「今は刻々変化します。今の様子も次々に変わります。季節が変わるように、世の中も変わっていきます。そして今様は常に新しい」
「今日は冴えていますなあ」
「暑さが引いてきたおかげです」
「単純ですなあ」
「それが今の今風かもしれません」
「単純に考えたいと」
「まあ、そうです」
 
   了


2019年8月24日

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