小説 川崎サイト

 

夏空秋空


 夏空と秋空が半々ぐらいの空。空は空なので、季節は色づけにすぎないが、雨空では見る気もしない。
 この季節の移り変わりで秋とも言えず夏とも言えない頃、村田は動き出す。この曖昧なタイミングを狙って。
 それは心情の問題。決まり空の夏空でも決まり空の秋空でもない。まだ決まっていない。しかし、どちらかには傾いている。そのため、まだ残暑の夏空とも言えるし、勢いが落ちたので秋空とも言える。
 ここが実は狙いなのだ。
 だが、一体何を狙っているのか、それは村田にも分からない。何かを始めるのなら、このタイミングがいいという程度で、決まり事はない。決めていないのだから、決まり事にならない。
 決めていないのに動き出す。これは何だろう。だからただの心情。動くのなら今ということだけが分かっている。
 ということを思いながら夏の雲の奥にいる秋の雲を見ていたのだが、同時に見られるのは、この時期だけ。夏なら入道雲だけだが、今はその奥に秋のうろこ雲が出ている。それもかなり高いところに。これが同時に見られる。
 こういうのは誤解を招く。夏らしくなく、秋らしくない。邪魔なものが入り込んでいるためだ。ではどちらが邪魔なのか。秋だと思いたい人にとっては入道雲は邪魔。夏の場合はその逆。
 どちらも正しくどちらも間違っている。正解はどちらにもない。その間なのだ。中間。
 しかし、これを見ている村田は自転車の上。少し郊外の町並みを自転車散歩中。この状態そのものが曖昧。しかも昼の日向からそんなところをうろつき、空などを見ている。
 見るべきものが空とは情けない話だ。「そら」ではなく「くう」を見ているようなもの。
 空は空っぽではないが、村田は空っぽ。
 しかし、夏が勝っているのか、汗ばんできた。帽子に触れると熱い。これは夏だ。
 これで判定がついたのか、夏の方が優勢。それで、これは中間ではなく、まだ夏で、秋ではないと感じた。帽子の熱さを指が教えてくれたので、ただの気持ちの問題ではない。
 それで村田は秋が勝っているものを探したが、なかなか見付からない。遠くにあるうろこ雲程度。これ一つでは弱い。
 それで、夏とも言えず秋とも言えぬ曖昧なタイミングを逸した。今日ではなかった。
 次回、コスモスや曼珠沙華が咲く頃がチャンスだろう。だが、秋にかなり傾きすぎているかもしれない。
 
   了


2019年9月6日

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