「ラストランナー?」
「確かにそうおっしゃってます」
「トップランナーじゃないのかね」
「いえ、ラストだと」
「最後の……と、いうことか?」
「いえ、最下位と」
「そんなのを呼んだつもりはないが」
「おかしいですねえ。ラストランナーなら誰でもなれますよ。価値はゼロだと思います」
「あたりまえじゃないか。それならわざわざ呼ぶ必要はない。何かの間違いだろ」
「では、ナンバー2を呼びましょうか。トップランナーは無理でも二番目なら、何とかなります」
「それは駄目だ。トップランナーに負けるじゃないか。負ける戦いをするつもりかね」
「ですから、トップランナーを呼ぶように言ったのですがね。手違いでしょうか。キャンセルしましょう」
「まあ待て、勝たないと駄目なんだ」
「ですから、キャンセルを」
「まあ、聞け」
「はい」
「負けそうだ」
「それはまだやってみないと」
「これは負ける戦いとみておる」
「最初から、そんなお気持ちでは」
「いや、今回は負けてもいいんだ」
「そうなんですか」
「負けるのはいけない。それは分かっているがね。何が何でも勝たなければならん戦いじゃない。今回はね」
「勝てなくても、精一杯努力すべきだと思いますが」
「そこで、ラストランナーだ」
「どういうことでしょう?」
「負けりゃ、二位も三位もない。仕事が取れるのは一人だけだ。それ以外はすべて負けだ」
「まあ、そういうことですが」
「二位も三位も最下位も同じことなんだよ」
「勝つことしか想定していませんから、当然かも」
「さあ、そこでだ。今回は負けよう。できるだけダメージを残さないためにもラストランナーに走ってもらおう」
「それは勝負を投げることになりますよ」
「ナンバーワンは呼べないのだろ」
「はい」
「じゃ、そこで勝負はついたんだよ。だから、彼はラストランナーを呼んだのだ」
「しかし、それでは手を抜いたような印象を与えませんか」
「ラストランナーは戦力外じゃないだろ。それにランナーさんに失礼じゃないか」
「分かりました。もうこれで、やる気を失いましたので、気楽になりました」
「たまには休まないとね」
了
2007年7月17日
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