小説 川崎サイト

 

若き隠遁者


 世の中のことが分かってくると、もう興味をなくす人がいる。よく分からないので、興味があったのだろう。そしてこんなものかと分かると、そこで止まってしまう。
 しかし、その後も世の中は進み、以前にはなかったことや、新たな謎が出てきたりするのだが、それまでの知識で何となく持ったりする。劇的な変化ではないためだ。相変わらずの世界が相変わらず続いているようなもの。
 だが、世の中のことに興味をなくしていても、日常の暮らしの中に、世間一般の風潮は入って来る。ここは学ばなくても、興味を持って調べなくても、それなりに順応していく。
 世を捨てた人を世捨て人いうが、人など入り込まないようなところで暮らさない限り、世間の風は次々に入ってくる。
 また、隠遁というのもある。これは世捨て人と同じだろう。ただ、それができる身分というのがあり、金銭的に不自由のない人達だろう。
 白川は若いのに隠遁者。これは別のタイプかもしれないのは年が年なので、世を儚むには早すぎるし、まだ何もやっていないのだ。
 やらない先から、もう隠遁。もの凄い先読みだ。
 若いのに悟ったようなことをいう人がいる。若いのに年寄りのように。これは若年寄だろう。そういう役職とは違う。
 この白川、小学生の頃からその兆しがあるので、悪くいえば病気だろうが、決して病んでいるわけではない。決してボケてはいない。
 隠遁は嫌悪感から来る場合が多い。要するに世の中が嫌になった。そんな機会は誰にでもあるが、世の中というところまでスケールを広げない。そうでないと世界そのものが嫌になったということになる。もっとローカルな、ある部分が嫌になった程度で、それが全体のように思ってしまうのだろう。
「白川君、相変わらず悟ったような顔をしてるけど、それはポーズかい」
「違う」
「まあ、いいけど、まだ若いのだから、世をすねたような態度はやめたほうがいいよ。誤解されるよ」
「もうされている。しかし誤解じゃなく、そのまんまだ」
「まあ、これから進学や就職がまだまだ残っているのだから、これからだよ」
「そういうのが嫌になった」
「そういう時期が確かにある。僕はないけどね」
「このまま行くとどうなるのかが楽しみだ」
「自分でいうなよ」
「どうなると思う」
「戻ってるよ」
「そうなの」
「何処かで、また世間の中に入り、世間並みのことをするようになる」
「本当かなあ」
「こうして話に応じているだけで、もう十分大丈夫ってことだよ」
「分かった。それなら安心して隠遁できるね」
「隠遁か。何か忍者みたいだなあ」
「そうだね」
 
   了


2019年9月23日

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