小説 川崎サイト

 

新しいもの


「分からなくなりましたなあ」
「どうかしましたか」
「最新のものを使っているのですがね」
「ああ、よくあることですよ。最初は素晴らしいと思えるのですが、しばらくすると以前のものに戻りたくなりますよ。いくら以前のものよりもいいものでもね」
「いや、最近のものは気に入ってますよ。何の落ち度もない。以前はその落ち度が多かった。だから最新のものにしたわけです」
「じゃ、何が分からなくなったのですか」
「さらに最新のものが出るのです。それと比べると、今の最新のものが古臭く見えてきましてね。何の不満もないし、よすぎるほどなのですが、最新のものは、今のものの弱点を補っています。それが弱点だったとは気付かなかったのですがね。それと、最新のもののほうがよりよくなっています」
「ああ、よくあることですよ」
「それで、久しぶりに以前のものを使ったのですがね。これがまた悪くない。またじゃなく、まだまだ使える。むしろ今持っている最新のものよりいい箇所もある。でも全体的に見て、新しいもののほうがいいのですがね」
「よくあるパターンですよ」
「それで、分からなくなった」
「最初から、何も分かっていないのでしょうねえ」
「そんなことはありませんが、味と言いますか」
「え、味ですか。そんなものが介入してくるのですか」
「そうなんです。以前のもののほうが味わい深い」
「それは機能とは関係がないでしょ」
「それも一つの機能なのです。そして古くなればなるほど、その味が増していく」
「そんなところへ行ってますか」
「行ってます」
「じゃ、どうするのです」
「だから、分からなくなったといっているのです」
「古いのでも新しいのでも同じだということですね」
「新しいものには古いもののよさがない。古いものには新しいよさがない。しかし、その当時は一番新しかったのですがね」
「しかし、味わいに走るのはよくないと思いますよ」
「その味に接していますとね、しっとりとくるのです」
「じゃ、それは好みの問題ということで、好きなようにされたらいいでしょ」
「そうですね。しかし、そこで分からなくなったのです。どちらへ向かおうかと」
「だから、いい味が出ている方へ行くのでしょ」
「そうですねえ」
「今の最新のものでも古くなります。既にさらに新しいのが出ているのでしょ。だったら、それも古くなり、さらに時間と共に古くなり、いい味が出て来るんじゃありませんか」
「おおそうじゃ」
「急に驚かないでください」
「そうじゃな、それで行ける」
「しかし、しなくてもいいようなことなので、何でもいいんじゃないのですか」
「まあな」
 
   了


2019年9月27日

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