小説 川崎サイト

 

創意工夫


「多彩なアタック方法ですか」
「そうです。多様な」
「そのメリットは」
「同じことでも新鮮に見えます」
「あ、そう。中身は同じで、やっていることは同じなので、結果も同じでしょ。だから同じことの繰り返しに過ぎませんねえ」
「まあ、そうですなあ」
「それで、新たな展開とか、進歩とか、そういったものが、その新たなアタック方法で生まれるのなら別ですがね」
「生まれません」
「じゃ、駄目ですねえ」
「しかし、同じことを繰り返しておりますとですね、もう考えなくてもできる。暗記してますからね。意味など考えない。次はこれをして、終われば、これをしてとかの流れが自然に付いていますから」
「それは慣れというものですねえ」
「そうです。しかし」
「はい」
「意識してやり出すとできない」
「ほう」
「次は何をしていいのか順番さえ見失います。しかし前後のことを考えれば、すぐに分かりますがね。でも、これでいいのかと不安になったりします」
「ほう。何でしょう」
「パターンで覚えているのでしょうねえ。中身じゃなく」
「それはありますねえ。私はパソコン操作が苦手なんですが、ファイル一覧からファイルを選ぶとき、上から二番目とか、三番目とか、そういう方法でやっています。ファイル名など見ない」
「それに近いです」
「これは会社のパソコンですがね。たまに誰かがフィル一覧の順番を入れ替えたりしています。更新順とか、新しい順とか、名前順とか。すると、もう分からなくなります。ファイル名を見ないと、探せません。ところがいつもは上から三番目です。これを動かされると止まりますねえ」
「はいはい、それと同じなんです」
「ファイル名もですねえ。ずらりと並んでいる中から探すときでも、短い目のファイル名だったので、まずはそこから探します」
「もうその話はいいです」
「そうですか」
「本題はアタック方法を毎回変えるということです」
「ああ、忘れていました。そういうお話しでしたねえ」
「順序を変えると、違った道を歩いているようなものでしてね。通り方によって、印象が違うのです。それで、新たな発見があったりします。パターン化したやり方では気付かないことです」
「はい」
「終わりました」
「ああ、それだけでしたか。何かすごいことを言い出すのではないかと期待していたのですがね」
「まあ、同じことばかりしていると飽きてくるものですよ。だから飽きないような工夫です」
「でも新たなものを産み出す方法じゃないでしょ」
「それは先ほど聞きました。それがどうかしましたか」
「いえ、進歩とか、色々と」
「多少進んだ程度では何ともなりませんよ」
「なりませんか」
「千メートルに一ミリ足す程度ですから」
「ああ、なるほど微々たるもの」
 
   了


2019年10月2日

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