小説 川崎サイト

 

陰獣対陽獣


 平田陰獣と蛭田陽獣がいる。どういう分け方かはすぐに分かるだろう。
 この陰獣と陽獣は意外と仲がいいかもしれないし、悪いかもしれない。また普通だったりするかも。
 少し暗い人、明るい人はいる。陰獣はうんと暗い人で、陽獣はうんと明るい人。両端にいるのだが、その端っこの人数はかなり少ない。暗すぎる性格もおかしいし、明るすぎる性格もおかしい。ほとんどの人は中獣だろう。
 だから中獣の場合、特に語ることはない。それが問題にはならないためだ。
 ある日、とある業界の総会で、偶然この二人が同席した。座敷だ。しかも狭い。茶室にもなるらしい。ここはそれなりの人しか入れない。茶の席では身分はなくなるのだが、ここは偉い人の控えの間のようなもの。または休憩所。
 そこに偶然平田陰獣と蛭田陽獣とが鉢合わせになる。
 総会行事は大広間で行われているが、今は雑談状態。懇談会、親睦会のようなもの。一寸した展示などもある。
 二人共長老格だがライバル同士ではない。本当の長老は別にいる。普通の人だ。陰獣では駄目で、陽獣でも駄目なので、二人とも端っこにいる長老。そして長老が結構多い。
 だから総会ではなく、長老会のようになっている。
 この業界、もう古くなり過ぎ、若い人がいない。全員年寄りだと、いきなり若者は入りにくいだろう。その中間の年齢の人がいればいいのだが。
「まずいです」
「二人一緒かね」
「そうです」
「何をしている」
「お茶でも飲んでいるのでしょ。静かです」
「会話は」
「ありません」
「じゃ、何も起こっていない」
「しかし、まずいです。両極端なので」
「そうだね」
「それに二人とも暴れます」
「獣だからね」
「そうです。危険です」
「まあ、二人共大人だ。馬鹿なことはしないだろう。それに長老なんだし」
「そうですね」
「しかし長いねえ。なかなか出てこない」
 幹事は心配になり、その茶室風の襖を開けた。
 すると、二人とも横になっている。向かい合ったまま横たわってしまったのだ。
「睨み合っていたのでしょうねえ」
「そうに違いない」
 相打ちと言うより、共倒れだった。
 
   了


2019年10月3日

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