「いるかな?」
吉田がドアを開けた。
清水は布団の中にいる。四畳半ひと間の住処だ。
「掃除ぐらいしたらどう」
「ああ」
「適当に座るよ」
吉田は雑誌をのけ、座る場所を作った。
清水は上体を起こす。
「病気か?」
「いや、静かにしていただけだ」
「精神的にまいってるのかな?」
「いや、静かにしているだけだ」
「あ、そう」
「心配しなくても大丈夫だから」
「この状態じゃ、心配だよ」
「別に異状はない」
食べたコンビニ弁当の容器が積まれている。
「掃除してやろうか」
「いや、片付いているから」
「だから、その神経がおかしいと言ってるんだよ」
「これはゴミの日に出すから」
二人は同僚だった。
吉田が退社してから一年になる。
「何があったのか、本当のことを話してくれないか」
「いや、会社には問題はない」
「何かあったんだろ」
「何もないよ」
「もう話してくれてもいい時期だ。一年になる」
「一身上の都合さ」
「人間関係だろ?」
「いや」
「他に考えられない。ちょっと思い当たることもある」
「人間関係はうまくいってたよ。思い当たることって、何かな?」
「それはまあいいけど」
「いやな奴がいるんじゃない?」
「そんなことはないけど、君とはウマが合わなかったかもしれないと思って」
「ああ、そういう奴もいたけど、それが原因じゃない。人間関係じゃないんだ」
「じゃ、何だよ。気になって仕方ないんだ」
「相手は人間じゃない」
「じゃ、仕事の不満か」
「そうじゃない。話してもいいけど、信用してくれないから……」
「それは聞いてからだ」
「人間じゃないんだ」
「何が?」
「見たんだ」
「何を」
「出たんだ」
「やっぱり気の病気だな」
「あの部屋に出るんだ」
「医者に行くべきだ。今なら薬で治るから。また覗きにくるよ」
清水は立ち上がった。
「恐ろしい化け物が庶務課にいるんだ」
「じゃあ、また、来るからな」
了
2007年7月19日
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