特殊な能力
妙な子だと言われ、村の悪童に取り囲まれ、あわやとなったとき、カラスが飛んできた。見ると周囲の木々にカラスの群れ、明らかに襲ってくる勢い。
また少し山に入った所で、熊と遭遇したのだが、怯えているのは熊で、飛んで逃げ去った。
この少年、ある日村に来ていた高僧のもとに連れていかれた。変わった僧侶で、位は高いが、妙なことに興味を持ち、特にこの少年のような不思議な能力を見聞するのが好きなようだ。これは本道ではない。そのためか、今の位が限界のようで、人徳に少し難ありとされている。それでもかなりの高僧だ。
高僧は少年の相を見て、将来世に頭角を現すであろうと予言した。ただの百姓の子供。時代は既に江戸時代中頃。大きく世が変わる動乱期ではない。
村の悪童達はカラスに襲われそうになってから、もう近付かなくなった。ただ、一人だけ、どうしても懲らしめたいと思い、その少年と対決したことがある。今度はカラスは来なかったが、少年から出ている殺気に驚き、逃げ出した。別に目の色が変わったとかではなく、このまま取っ組み合いになれば殺されると直感したためだ。
少年の家は土地持ちの農家で、所謂本百姓。小作人こそいないが、これで食べていける田畑を持っていた。長男である少年は、真面目に野良仕事を手伝った。もう悪童達もいい年になり、その少年に絡んでくることはなかった。ある年代になると、もう大人扱いになるためだ。
つまり、この少年、普通の百姓の子として、その後もこの村で過ごし、やがて、家を継いだ。
子供も生まれ、やがて孫もできた。
彼は自分に特殊な能力があることを知っていたが、それを使うようなことはなかった。
ただ、孫と遊んでいるとき、すっと鳥を呼び寄せたりする程度。
潜在能力、それがいくらあっても使わないままのことがあるのだろう。
小さい頃、お寺に来ていた偉い坊さんの予言も当たらなかったようだ。僧侶にその能力が無かったのだろう。
彼はその後も世に頭角を現すことなく、一生を終えた。
了
2019年10月12日