小説 川崎サイト

 

夢は枯れ野を


「寒くなりましたなあ」
「何ともなりませんが、私は冬野が好きです」
「冬野」
「冬の野っ原ですが、秋の終わり冬の始まり頃がよろしい」
「晩秋ですなあ」
「モミジ狩りよりも、冬野の方が趣があります」
「そんな野原、滅多にないんじゃないですか。何処かの高原でも行かないと。牧草が生えているような場所でしょ。木々がない、草だけの野原」
「秋の終わり、草も紅葉しますが、実際には枯れ出すのです。このときの色がいい。葉は萎れ、痩せてしまい、茎や枝だけになります。そして野が茶色くなり、その色もあせはじめ、白っぽい。まあ枯れ草野になります」
「草の冬枯れですなあ」
「そうです。残った枝や茎が、ポツンポツンと残り、それも風を受けて傾いています。まさに荒涼とした荒野のように。木の葉の紅葉のような鮮やかさはありません。そこが地味でいい」
「それを見に行かれるのですか。遠いでしょ」
「いや、近くに放置した田んぼがありましてね。かなり広いですよ。そこがその状態になります」
「ああ、そういえば更地なんかでも、そんな感じになっているところがありましたよ」
「スポットです。でも誰も見に行かない」
「そうでしょ。その土地を買うのなら別ですがね」
「まあ、それを考慮して更地の草なども手入れされていますよ。それよりも放置した田んぼの方が草の育ちもいい。しかし、冬が近付くと、それらの草も枯れていく」
「夢は枯れ野をなんとやらという詩がありますなあ」
「私はそういうスポットを何カ所か知っています。今度ご一緒しましょうか、自転車でくるっと回れますよ」
「おお、それはいい。是非お願いします」
「はいはい」
 
   了

 
 


2019年11月18日

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