小説 川崎サイト

 

調子が良くなる鳥


「この頃になると飛んでくる鳥がおりましてね。それを見るといい年末になり、いい年明けになります」
「渡り鳥ですね」
「そうです。年に一度見られるかどうか、微妙なところです」
「縁起のいい鳥なのですね」
「そうです。昔からこの鳥を見ると良い年末年始になります」
「どんな鳥ですか」
「結構派手な極彩色。雀ぐらいの大きさですが、嘴が長い。まあ、見慣れた雀に比べると、鳥の格が違うように感じますなあ。貴人を見るようなね」
「貴種ですか」
「さあ、よく分かりません」
「はあ」
「それで、最近思いましたね」
「え、何をですか」
「鳥を見る機会です」
「年に一度見られるか見られないほどなんでしょ」
「見ない年は調子が悪い」
「それは聞きました」
「よく考えると、この鳥は山際にいます。里には滅多に下りてこない。まあ、里で見たことは一度もありません。ほとんど山中です」
「それが何か」
「山中で見かけるのは、山中へよく行っているときです」
「はい」
「この時期、毎日行っておれば、先ず見ることができる。ところが三日おきとか、四日おきにしか行かないと見ることは希」
「確率の問題ですか」
「そうです。山にいる時間が長いほど見る機会が多くなる。それだけのことでした」
「何だ」
「しかしです。因果関係はあるのです。調子が悪いときは山へは行かない」
「なるほど」
「確率がそれだけ落ちるわけです。だから既に調子が良い年なんでしょうなあ」
「つまり、調子の悪いときは山に行かないし鳥も見ない。そして調子の良い年末にも年明けにもならない。ということですね」
「そうです。縁を作らないからです」
「でも体調の悪いときは山へ行かないのでしょ」
「いや、たまには行きますが、頻度が低くなります。行かない日が結構出てくる」
「分かりました。単純な話でした」
「いえいえ、お粗末様」
 
   了


 


2019年11月21日

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