小説 川崎サイト

 

三寒四温


「寒くなりましたねえ」
「三日ほど寒い日が続き、そのあと四日ほど暖かい日が続く。これを三寒四温と呼んでおります」
「これからがそのシーズンですか。そのパターンが繰り返されると」
「らしいですが、これは中国での話なので、そのまま我が国に当てはめるわけにはいきません。まあ中国も広いので中原での話でしょ。日本も広い、長いので北と南とでは気候も違う。だから、その南北の幅の中に、三寒四温が当てはまる地があるかもしれませんがね。当然季節風の吹き方も違う」
「じゃ、当てはまらないかもしれませんよ」
「三寒四温が二寒三温になるか四寒五温になるか、はたまた三寒一温になるか、それは分からない。しかし、季節は行きつ戻りつで進む。それはあたっているでしょ。寒くなりっぱなしじゃなく、寒くない日もある。しかし、また寒くなる。前回の寒さよりも少し寒くなっているはず。真冬に向かっている時期はね」
「三歩進んで二歩下がれもありますねえ」
「じゃ最初から一歩だけ進んで、じっとしている方がよかったりしそうですがね」
「勝ちに乗じるな、もありますよ」
「それは勝った勢いでまた勝とうとすることを戒めたことでしょ。調子に乗りすぎるとよくない」
「大欲ではなく小欲ですか」
「こういう名言は裏表があり、結局はどちらでもいいのですよ。折角のチャンスを見逃したりしますからね。取れるはずの勝ちをみすみす逃すようなもの」
「そういうのは何処から得るのでしょうねえ」
「おそらく事例。過去のね。過去にあったパターンを参考にしたのでしょう。想像ではなく、実際にあったことから生まれた言葉だと思われます。しかし、パターンは繰り返されますが、中身が違っていたり周辺が違っていたり、時の勢いも違っていたりしますので、そっくり同じような状況にはなりません。だから当てはめるのはどうでしょうかねえ」
「じゃ、何でもありですか」
「過去の成り行きを見て、今回もと思い、臆病になったり、また、その逆もあるでしょ。あくまでも目安で、過去をそのまま今のことに置き換えないことでしょう。昔あったからという、以前もあったからといって、そのパターンに従うのは、現状をよく見ていないためでしょう。過去ばかり見て、今を見ていない。そして現実はやってみないと分からない」
「ややこしい話ですねえ」
「まあ、過去を引っ張り出すのは、都合が良いからでしょ。この先の未来、現実ですな。それは誰にも分からない。起こってみなければ。予測はできますが、その実感は予想していたものとは違うはずです」
「何故でしょ」
「同じ偶然がそう簡単には重ならないためでしょ」
「偶然」
「三寒四温も起こりやすい偶然という程度。全部あたれば天気予報はいらない」
「分かったようでよく分からない話でした」
「話というのはその程度のものですよ」
 
   了

 


2019年11月25日

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