小説 川崎サイト

 

山庵の守善


 守善は目が覚めたのだが、また食べて寝て、食べて寝てを繰り返すだけ。それが修行だと言われ、人里離れた庵で過ごしている。しかもたった一人。誰も作ってくれないので、食べて寝るだけでは済まない。畑はあるが、田んぼがない。それに水田があってもまだそれは食べられる米ではない。畑があっても育つまで待つしかない。
 野菜は何とかなるが、米がない。そのため、米は届けてくれる。しかも一年分。
 畑で作らなくても、山や川があるので、食べられる野草なら、何とかなる。そのままでは危ないので、乾燥させる。それから煮て食べる。
 だからこの修行はじっとしているだけではなく、食事の用意が加わる。
 それで山に分け入り、鳥や獣を狩りに行くこともあるが、これは素人では無理。落ちている鳥、既に死んでいる獣ならいいが、そんなものは山の鳥が真っ先に食べてしまうだろう。それに、虫もそれを狙い集まってくる。
 比較的手に入りやすいのが川魚。しかし小魚なので、食べるところがあまりない。大量に捕れたときは残りは干した。
 問題は修行だ。その庵に籠もり、座禅でもやればいいのだが、食べるものが気になる。そろそろ夕方に近い。今夜食べるものがない。米はあるが、おかずがない。干し魚も尽きたし、野草も尽きている。畑の野菜はまだ育っていない。
 書が多く積んであるのだが、読んでいるどころではない。気が散る。
 里へ下りて買えばいいのだが、銭がない。物々交換の品もない。物はそれなりに身に付けているのだが、必要なものなので、売るわけにはいかない。
 それで守善は里へ下りてきて、鍛冶屋の手伝いをした。そんな技術は無いので、掃除とか水汲みとか、その程度のもの。買い物も頼まれる。
 戦乱の世が続き、刀鍛冶は忙しい。
「守善さん」
「はい」
「あなた種子島をご存じか」
「鉄砲のことですか」
「そうじゃ、一丁欲しい。作れるものなら、作りたい」
「鉄砲なら撃ったことがありますよ」
「そうなのか」
「持ってきましょうか」
「持っておるのか」
「城へ行けばありますよ」
「是非一丁欲しい」
「分かりました。取ってきます」
 守善はこの領内の家老の息子。修行のため山庵に押し込められているようなもの。次男なのに兄よりも優れており、目立ちすぎるので、目立たないところに出されたのだ。
 守善は鉄砲組の武器庫から二丁盗み出した。一丁は分解するはずなので。当然火薬類も。
 鍛冶屋は早速作り出したが、やはりうまくできない。
「守善さん、鉄砲鍛冶を知っておるかな」
「はい、探します」
「教えを請いたい。連れてきてくれると有り難い」
「お安い御用で」
 鉄砲鍛冶は城下にはいない。それで、組頭から鉄砲の入手先を聞く。かなり遠い。
 その村まで行くと、鉄砲鍛冶がウジャウジャおり、技術を教える先生もいた。何人もいるが、それぞれ出掛けている。一人だけ戻っていた先生がいた。
 その先生のおかげで、鉄砲が作れるようになった。しかし、火薬類が必要で、これはこれで職人がいる。それも修善が探してきた。
 瞬く間に大量の鉄砲を作れるようになったので、それで大儲けした。
 それで守善も忙しい。
 米はあるがおかずがない。それを得るため小銭を稼いでいたのだが、今では山庵にいることは希で、修行もやっていない。
 
   了
 
 


2019年11月27日

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