小説 川崎サイト

 

お庭番


「闇が迫っておる」
「日が落ちるのが早くなりましたからねえ。冬至を境に、そのうち早くなりますよ」
「そうではない。闇の者が迫っておる」
「ほう、また闇の長者が動き出したのでございますか」
「何とかせい」
「相手は魑魅魍魎、何ともなりませんが」
「このままでは闇で覆われる」
「そのうち闇も去るでしょう」
「その間は闇じゃ。そしてずっと闇の時代が続く。いつか晴れようが、それでは遅い」
「しかし、私どもに言われましても、相手は闇の長者ですからねえ」
「そのために、お前たちを飼っておるのじゃ」
 このお前たちとはお庭番のことで、屋敷の奥庭で植木の手入れをしている。しかし、今ではただの植木職人と同等で、内命を帯び暗躍するようなことはなくなっていた。
「分かりました。何とかしましょう」
 このお庭番も実際には闇の世界の者で、同類。だが、もうそれは昔の話。
「それでは池を掘り鯉を放つのは取りやめですか」
「うむ、それどころではないのでな」
「錦鯉の見事なのを見付けたのですが、誰かに先に買われてしまいますよ。一応予約はしておきましたが」
 主人は値を聞く。
「それは安い」
「しかし、それより高い値で買う人が現れたら売るとか言ってます」
「池はまだか」
「まだ堀かけもしていません。それに水を引くのが大変でして」
「それはもういい。闇の長者を何とかせい」
「さあ、そこなんですよ」
「何処じゃ」
「闇の長者とは通り名で、符丁のようなものでしてね。何処の誰だか分からないのです」
「だから、何とかせい」
「いっそのこと、当家も闇をやりませんか。それなら恐れることはなくなりますが」
「うむ」
「昔の仲間を伝っていけば、何とかなります。敵として探すのなら無理ですが」
「そんなものか」
「闇の長者も仲間が欲しいはずなので」
「ではそう致せ。ただし、本当に仲間になるわけではない。内部に入り込んで葬れ」
「また、難しいことを」
「行け!」
 お庭番は池を掘り出した。
 
   了

 
 


2019年12月1日

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