小説 川崎サイト

 

利休鼠


 夜中ゴソゴソ音がする。台所らしいので、大村は見に行った。まだ眠ってはいない。パソコンの前でネットを見ながら、ぼんやりと過ごしているときだ。
 寝るにしては、まだ眠くない。起きていてもやる気が何も起こらないので、寛いでいるしかない。
 しかし、妙な音にはしっかりと反応し、しっかりと対応する気は満々。今まで見ていた「世界の奇習」とかの動画よりも、よりリアルな現実のためだろうか。見ているだけではなく、それと接することができる。本物の出来事なのだから。
 大凡の正体は分かっていた。ゴキブリがゴミ袋の中に入り込み、ガサコソいわしている音だ。音はプラスチック容器から出ているのだろう。ゴキブリそのものの音ではない。
 だが、もう冬。生き残っているゴキブリは数日前に見たが、弱っており、近付いても逃げる元気がなかった。
 世界の秘境ではないが、台所に何かがいる。これを探し出すという台本がすぐにでき、大村はやれることができたので、すぐに台所へ行き、電気を付けた。ぱっと明るくなった瞬間、動くものがある。すぐに動いたのではなく、目が合ったのだ。ゴキブリではない。鼠。
 これは珍しい。滅多に見ない。それで意外だったので、驚いたのだが、それだけではない。光線の具合からか、色が変なのだ。
 子供の頃、色々な色が付いたカラーひよこが売られていたが、それを思い出した。
 鼠なので、鼠色なのだが、緑色かかっている。それが気持ちが悪い。鼠を見ただけなら半歩下がる程度だが一歩下がった。
 鼠は当然さっと逃げた。流し台の下に戸がある。物置になっているのだが、いつも少しだけ開けていた。その奥はガラクタを詰め込んでいる。もらい物の瀬戸物とか、セットもののコーヒーカップとかだ。酢の大きな瓶もある。長く掃除などしていないので、奥がどうなっているのかは分からない。壁に穴でも空いているのだろうか。
 しかし、目的は果たしたので、深追いはしなかった。鼠退治などする気はない。もう寝る前だ。
 後日、そのことを友人に話すと、それは縁起の良いものを見たねと教えてくれた。利休鼠というらしい。
 抹茶色の鼠だから、利休の名を付けたのかもしれない。
 何故縁起が良いのかと聞くと、鼠の国から来たためだと、お伽噺丸出しのことをいう。
 つまり、鼠の穴は鼠の国、根の国に繋がっており、そこは鼠の浄土。
 古い家だが、壁に穴が空いているとは思えない。入り込んだとすれば天井からだろう。床下からの可能性もある。
 そういえば猫が天井裏に入り込み、出られなくなってニャーニャーと助けを求めていたことを思い出した。野良猫だ。
 緑がかった灰色の鼠。縁起を担ぐわけではないが、悪いものではないのだろう。
 大村は百均でねずみ取りを買いに行こうと思っていたが、やめた。
 
   了

 
 


2019年12月20日

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