小説 川崎サイト

 

最後の紅葉狩り


「曇っていては何ともなりませんねえ」
「曇天です。夕方のように暗い」
「しかし、風がないので助かります」
「あれば寒いですからねえ」
「今でも寒々しいので、元気が湧きません」
「誰かに分けてもらいますか」
「元気など貰えるものじゃありませんよ」
「そうなんですか」
「むしろ与える方が元気になったり」
「はあ」
「しかし、元気のないときもいいものです。こういった冬の曇天、鬱陶しくて、滅入りそうになる。しかし、これは冷静になりますよ。色々とね。落ち着きを得られます」
「どうします。予報では晴れと出ていたのですがね。紅葉、今日が見納めですよ。来週じゃ、もう落ちてます。落ち葉狩りもいいですが、やはり青い空をバックにした映えた紅い葉が見たいものです」
「そうですねえ。この天気じゃ無理か」
「どうします」
「まあ、折角待ち合わせたのですから。でも、映画を見に行くわけにもいかないでしょ」
「映画はごめんです」
「どうしてです」
「意のままにならない」
「まあ、そうですが」
「自分ならこうするとか、そういうことができない」
「まあ、シナリオがありますからねえ」
「話がもう最初から決まっている。助けたい人がいても助けられない。危ない場所があっても引き返せない」
「はい」
「それが気に入りません」
「私は目が回ります。目眩がします」
「ほう」
「久しぶりに大きなスクリーンのある劇場で前の方で見たのですが、目が眩んで映画どころじゃない」
「そうなんですか」
「それで、映画館では映画を見られなくなりました。それに周囲が暗いし、煙草も吸えない」
「はい」
「さて、どうしますかねえ、雨天の紅葉。これはまあ今年最後なので、行きますか。モミジの天麩羅でも買って帰りましょう」
「そうしましょう。折角待ち合わせたのですから、行くべきでしょ」
「はいはい、そうしましょう」
 
   了

 
 


2019年12月22日

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