小説 川崎サイト

 

調子の悪い話


「どうですか、調子は」
「まだ本調子じゃないよ。気怠い」
「まだ風邪が残っているのですね」
「長引くねえ、しかし、調子は悪いが悪くはない」
「じゃ、いいのですか」
「悪いが、この調子も捨てたものじゃない。悪いがいいところもある。テンションが上がらないのでね。気持ちがゆったりする」
「薬を飲まれたからでは」
「飲んでいない。眠くなるしね」
「はい」
「こじらせるといけませんから、安静に」
「安らかに静かにかね」
「よく言うじゃありませんか、安静にしておくようにって」
「まあ、動き回らなければいいんだろ。要するに寝てりゃ」
「そうですねえ」
「しかし、気怠いので、ずっと安静状態だよ」
「ところで」
「そうだ、用件だった。何かあったか」
「安静を崩すようなので」
「いいから言いなさい」
「こちらで何とかします」
「じゃ、わざわざ来ることはない」
「かなり深刻なのです」
「だから来たのだろ」
「はい」
「話してみなさい。寝込んでいるわけじゃないので」
「広田が出てきました」
「あのバケモノめ、生きていたのか、よし、今度こそ退治してやる」
「手強いです。昔の広田じゃありません」
「あれだけ私が昔やっつけたのに」
「かなり昔ですから」
「バックは」
「大物が付いています」
「まずいな」
「広田はこちらの内実に通じています。まずいです」
「じゃ、私が出るしかないだろ。そのつもりで、来たんだろ」
「はい、お察しの通り」
「体調は悪いので無茶はせん」
「よろしくお願いします」
 しかし、散々な目に遭って戻ってきた。
「無事で戻れただけでもよしとしよう」
「はい」
「しかし、広田は手強くなりましたねえ」
「復讐しにやってきたんだ」
「復讐の鬼と化したんでしょうねえ」
「こりゃ、勝てんわな」
「それより、体調は」
「ああ、治ってた」
「それはよかったですねえ」
「ま、まあな」
 
   了

 
 


2019年12月30日

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